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SF編の名の通り、SF映画・SF漫画・SFアニメからのネタが多数含まれる。
SFC版攻略本では、元ネタとしてSF映画「2001年宇宙の旅」と「エイリアン」が挙げられている。
コンピュータが表示する文字がアルファベット・数字・カタカナのみであるあたりは、近未来編と同じくレトロフューチャー感もある。
ゲーム内の描写を見る限り、ディスプレイに日本語表示する際、漢字もひらがなも表示可能なくらいの技術力はあるはずだが(現にリメイク版発売の2020年代では、ゲーム機ですら各国語の文字種をすべて表示できる)、このあたりからも、SF編が「厳密な科学的考察に基づくSF」というより、「様々な名作SF作品をオマージュした、ゲームとしてプレイした時に面白いシナリオ」であることを感じさせてくれる。
また、コンピュータが表示する日本語をカタカナのみにしたことが、結果として印象的なホラー演出につながっていることは、プレイすればわかる通りである。
本作の「黒い背景に緑色に発光した文字」はオシロスコープ、ひいては昭和の時代のコンピュータの表示が元ネタだろう(下の1972年発売のディスプレイ端末機「IBM 3270」のリンク先の実物の写真を参照)。現在でもWindowsパソコンでPowershellなどのコマンドラインインターフェイスを起動すると、初期設定ではだいたい黒~濃い青の背景に緑や白の文字列が表示されるが、これらも当時の名残りである。

レトロフューチャーネタとしてはもうひとつ、現代に携帯電話が普及する前のSF作品の大半がそうであったように、乗組員たちが携帯電話のような小型通信端末で連絡を取り合っているような描写は存在せず、固定されたコンピュータを通しての通信しかしていないようである。
何らかの事情で船内での無線通信ができないのかと思えばそうでもなく、最終盤に「通信ユニット」が登場している。しかも高機能そうなキューブに通信機器が内蔵されている様子もない(作業機械として登録した割に、キューブは「パワージャッキ」も積んでいないので、カトゥーとしてはこれから様々な機能を追加するつもりだったのかもしれないが……)。

一方でSF編は、リメイク版において、テキストの変更がかなり多め。
ストーリーの大筋こそそのままであるが、「AI」など2020年代において一般的になったコンピュータ用語が多く取り入れられている。
登場キャラの性格や心理描写はSFC版の時点でもかなり凝っていたが、乗員の個室の私物が調べられるようになったことで、より丁寧に描かれている。SFC版ではプレイヤー視点だと嫌味な部分が前面に出ていたカークであるが、私室に置かれた私物から、実際にはパイロットとして優秀であり、SFC版にもあったレイチェルとのメールでのやりとりと合わせ、レイチェルが彼に惹かれる理由がきちんとわかるようになっているし、そのレイチェルの精神面の脆さ・カークへの思い(と共に、カークへの依存)もより強調され、ホラー演出の強化にもつながっている。
他にも、「人間」そのものに関する描写がより強化されている箇所も見られる。たとえばカークが亡くなった後、ダース伍長はベヒーモスの様子を見に行くが、SFC版ではベヒーモスについて「軍はこいつの力を兵器に利用するつもりだろう」と言うが、リメイク版では「お偉いさん方はこいつの存在も金のなる木だ、政治という戦争に利用するつもりだろう」というように変更されている。
後者の方がより人間の狡猾さを感じさせる上、OD-10も当然この言葉を聞いていたはずである。
TIPSによるメタ演出が追加されたのも、プレイした方ならご存知の通り。
SFC版・リメイク版両方をお持ちであれば、比較しながらのプレイも面白いだろう。
キャラの細かいモーションの変更や追加も見どころである。序盤、コールドスリープ中の乗員たちの中で、カークとレイチェルだけが互いに向き合っていたり、リフレッシュルームでカークがヒューイを煽った時、ヒューイが悔しさからか震える描写があるなど。

SF編には、デザイン担当の田村由美先生が小学館のゲーム雑誌「ゲーム・オン!」1994年10月号に描き下ろした「SF編序章 Space Trap」という、SF編本編の前日譚の短編漫画がある。
SF編は人物描写の細やかさに定評があるが、コギトエルゴスム号の乗員たちについて更に考察を深めたいのなら、「SF編序章 Space Trap」もおすすめである。
漫画でもコギトエルゴスム号内部の人間模様はしっかり描かれており、SF編本編の描写を補強してくれる。
現在では、「田村由美デビュー40周年記念本 KALEIDOSCOPE」に収録されており、Kindleなど電子書籍版で読むことも可能。

田村先生の話についての余談になるが、リメイク版でのSF編登場キャラの声優に、田村先生の作品がアニメ化などされた際によく出演する井上和彦氏や佐々木望氏が起用されている。中でも佐々木望氏は、かねてから「ライブ・ア・ライブ」のファンで、25周年記念イベント「LIVE A LIVE A LIVE 新宿編」に田村先生と訪問したことがきっかけでリメイク版に声優として出演することになったと、「LIVE A LIVE 30周年大感謝祭 ―蒲田編―」パンフレットでプロデューサー時田貴司氏がコメントしている。

2001年宇宙の旅

1968年のSF映画。
攻略本で元ネタとされている通り、ストーリーや設定には本作の元となったネタが随所に存在する。
宇宙船ディスカバリー号内のデザインや描写(コールドスリープカプセルや内部の意匠等)は本作のコギトエルゴスム号にも反映されている。 本作の「船のAIが人間によって出された命令の矛盾から暴走」「船のアンテナの故障」「船外活動中に宇宙服に異常」「コールドスリープカプセル中の乗組員が生命維持装置を切られる」などは、「2001年宇宙の旅」と共通している。

また、SF編のみならず原始編の元ネタも含まれている。
未知の存在「モノリス」は原始編「モノな石」の元ネタ、コンピューターHAL9000は本作のOD-10の元ネタになる。

映画の監督や脚本をつとめたスタンリー・キューブリック氏から、SF編主人公の名前「キューブ」が生まれた……と説明されていたこともあるのだが、実際にはデザインを担当した漫画家・田村由美先生の絵から、作中のカトゥーのように「丸いけどキューブ」の発想で生み出され、後付でキューブリックのネタが付け加えられたそうである。
時田貴司氏のポスト及び返信を参照のこと。

なお、スタンリー・キューブリック氏の綴りは「Stanley Kubrick」であり、「Cube」は含まれない。
下の「名前の表記について」という項目も参照されたし。

スタンリー・キューブリック - Wikipedia

エイリアン

エイリアン (映画) - Wikipedia

1979年のSFホラー映画。
閉鎖空間である宇宙船内で、未知の生物に次々とクルーが襲われるパニックホラー作品であり、本作におけるベヒーモスの元ネタになる。
宇宙貨物船が舞台であることや、伍長が極秘で受けていた、犠牲が出ようとも未知の生命体を回収しろ、という命令もこちらが元ネタになる。
また、宇宙船を制御するAIの名前は「マザー」(形式名は「MU-TH-UR 6000」)であり、本作のラストボス「マザーCOM」の名称の元ネタと思われる。
リメイク版収録の英語版では「マザーCOM」が「MUR-TH-UR Matrix」となっており、「MU-TH-UR 6000」が元ネタなのは明らかだろう。

※エイリアンの描写が若干グロテスクなので、苦手な方は注意。

なお、「マザーボード」や「マザーコンピューター」のように、「母体」となるものを「母」と表現すること自体はコンピュータ黎明期から存在していたようである。おそらくは「マザーシップ」(母艦)あたりから、コンピュータ用語にも使われるようになったのであろう。
このことから、ゲーム含め、SF作品で人工知能やコンピュータが敵になる場合、女性キャラとして造形されることは珍しくない。

登場人物の名前

SFC版の時点でも登場人物たちの名前はSF関連が元ネタと推測されているが、リメイク版で新たに設定されたフルネームにおいてもSFが元ネタと思われるものがいくつかある。
ただし全て推測の上、一般的な名前・名字も多いことから、複数のネタが考えられる点に注意。

ヨシユキ・カトゥー

ヒカル・スールー(ミスター・カトー) - Wikipedia

名前の「ヨシユキ」はリメイク版で新たに設定されたが、SFC版での「ヨシユキ」、リメイク版における「陸奥守吉行」が由来かは不明。他キャラがSF関連が由来であるだけに、「陸奥守吉行」ではなく他の由来がありそうである。「機動戦士ガンダム」シリーズなどの監督・富野由悠季氏が元ネタ説もネットでは見かける。
「カトゥー」は「スタートレック」シリーズのヒカル・スールー、日本語版でのミスター・カトー(カトウ)から。原語版と日本語版でキャラ名が異なる理由は上リンク先を参照(なお、リメイク版「ライブアライブ」収録の英語版では、SF編キャラの名前は日本語版でも英語版でも同じ)。

SFC版取扱説明書では「カトゥ」と表記されており、長音符の「ー」はない。開発中に表記が変更になったのだろうか。

リメイク版は日本語以外の言語もローカライズされて収録されているが、中国語繁体字版だと「ヨシユキ・カトゥー」は「義幸・加藤」となっている。
「陸奥守吉行」とは一致せず、また、富野由悠季氏の本名は「富野 喜幸」であり、「義幸」ではない。
結局のところ、「ヨシユキ・カトゥー」の「ヨシユキ」の由来はよくわからない。

カーク・ウェルズ

「カーク」は「スタートレック」シリーズの「ジェームズ・T・カーク」から。
「ウェルズ」はSF作家ハーバート・ジョージ・ウェルズ(H・G・ウェルズ)氏から。

チャーリー、転送を頼む - Wikipedia

「スタートレック」シリーズの最初の作品である「宇宙大作戦」に登場したカークによる、エンタープライズ号へ転送帰還する時の指示「チャーリー、転送を頼む(Beam me up, Scotty)」は流行語のように扱われており、本作におけるカークの口癖「そんなのワープでやっちまえ」の元ネタになったのかもしれない。
なお、「スタートレック」シリーズにおいて、「チャーリー、転送を頼む」に近いセリフはあるものの、実際には作品内でカークがこのセリフを発したことはないという。本作のカークも作中では「そんなのワープでやっちまえ」のセリフを実際に発しておらず、カトゥーが思い出話として語るのみである。
リメイク版発売時にはかろうじて、公式のLINEスタンプでカークのセリフに採用された。

レイチェル・クライン

「レイチェル」はフィリップ・K・ディック氏のSF小説「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」の登場人物からか。映画「ブレードランナー」の原作でもある。
「クライン」はSF作家であればオーティス・アデルバート・クライン氏、または「クラインの壺」か。
英語版での綴りは「Rachel Klein」になるが、「Rachel Klein」の同姓同名の人物はSF関連以外にも多数いる。
一般的な名前ゆえに、確実にこれと言える由来は筆者にはわからない。

なお、「ファイナルファンタジーVI」に登場するレイチェルも連想させる、という意見もある。
「ファイナルファンタジーVI」のレイチェルは、プレイヤーキャラのひとりロックの恋人だったのだが、ロックと共に行動していた際に事故で記憶を失った上、戦乱に巻き込まれ亡くなる。その経緯ゆえにロックはひどく後悔し、レイチェルの遺体は密かに保管され、彼女を魔石「フェニックス」で蘇らせようとしていた。
本作では立場が逆になり、レイチェルが恋人のカークの遺体を自室へと移動している。

ヒューイ・トランブル

1972年公開のSF映画「サイレント・ランニング」に登場する作業用小型ドローンの2号機の名前が「ヒューイ」、また、この映画の監督がダグラス・トランブル氏であり、「2001年宇宙の旅」「ブレードランナー」にも関わっている。
なお、「サイレント・ランニング」に登場する小型ドローン3機の名称「ヒューイ」「デューイ」「ルーイ」の元ネタはディズニーのキャラクター・ドナルドダックの3匹の甥っ子たちの名前である。

ワイヤーフレーム - Wikipedia

ダグラス・トランブル氏は「2001年宇宙の旅」でワイヤーフレームのアニメーション制作に関わっている。
3DCGの黎明期における3D表現はワイヤーフレームから始まったが、「2001年宇宙の旅」が公開された1968年当時にも存在はしていたものの、実際の映画では「針金で作った模型を撮影してアニメーション処理」という、3DCGっぽく見せた映像だったという。まだ一般に3DCGを取り扱う技術が浸透してはいない時代であった。
一方でワイヤーフレームを取り入れたゲームは1980年代に多数登場しており(初期はアーケードゲーム)、SFC版発売の1994年には、既に「ややレトロな表現」であった。
そして本作では、SF編ラストボスのマザーCOMの見た目がワイヤーフレームであり、「2001年宇宙の旅」を反映している。
マザーCOMを向き変えするとワイヤーフレームではない全く異なる姿になる、というネタはSF編攻略でも紹介した通りである。

ホル・ビショップ

エド・ビショップ - Wikipedia

「ビショップ」は「2001年宇宙の旅」の月面シャトル船長役、エド・ビショップ氏からと思われる。

名前の「ホル」の由来は不明だが、リメイク版での追加点から考えられる可能性について記す。
リメイク版にて船長の私室に馬に関係するものがいくつか置かれており、馬が好きだったことが示唆されているが、「ホル」と「馬(英語でhorse)」から、荒木飛呂彦氏による漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の「Part3 スターダストクルセイダース」(連載:1989年~1992年)の登場人物、ホル・ホースが由来の可能性がある。

ジョジョの奇妙な冒険 > スターダストクルセイダース - Wikipedia

ただしホル船長とは、「パイプをくわえている」(ホル・ホースは咥えタバコから禁煙パイプに変わったという経緯がある)くらいしか共通点がないので、逆にリメイク版制作時に「ホルという名前からホル・ホースを連想して、馬に関係するものを私室に設定した」という可能性もある。
余談だがリメイク版では、私室のシンクを調べた時のメッセージより、船長のパイプは電子パイプだったことが判明している。

一応、中世編のストレイボウの名前の由来が「ジョジョの奇妙な冒険」からだという時田貴司氏からの明言があるため(詳細は中世編解説を参照)、SFC版の時点でも、「ジョジョの奇妙な冒険」由来のキャラがストレイボウ以外に居たとしても不思議ではないが、いずれにしてもSF要素がほぼないことから、由来としては怪しい。

SF要素を元ネタとするなら、考えられそうなのは、「HAL9000」のHALをもじったものか。
結局のところ由来は不明。

ダース伍長

ダース・ベイダー - Wikipedia

SF映画「スター・ウォーズ」シリーズの悪役ポジションでアンチヒーロー、ダース・ベイダー(ダース・ヴェイダー)の「ダース」が由来か。
SF編序盤はプレイヤーに対し、ダース伍長に悪い印象を抱かせるようシナリオが展開するが、名前でも怪しい人物という演出を試みたのかもしれない。

北米国際オートショー

北米国際オートショー - Wikipedia

カークの個室のコンピュータで彼の個人ファイルの日記を見ると、デトロイトでのモーターショウの日程が報じられた、と書かれている。
アメリカ合衆国・デトロイトで毎年開催されている北米国際オートショーのことと思われる。

ベヒーモス

ベヒモス - Wikipedia

ベヒーモス(behemoth)は旧約聖書に登場する獣の名称。中世以降は悪魔として扱われることになるなどの経緯は上サイトなどを参照。
スクウェアのRPGではファイナルファンタジーシリーズをはじめ、敵キャラとして頻繁に登場する。ほとんどの作品で「強い雑魚敵」として登場しており、本作では(ゲームシステム上)戦うことすらできず、接触するだけでゲームオーバーになってしまうほど強い。

SFC版取扱説明書、小学館のSFC版攻略本、漫画「SF編序章 Space Trap」では、ベヒーモスを捕獲した惑星の名前が「マシーナ」と設定されているが、ゲーム内ではSFC版・リメイク版ともに言及されていない。
「マシーナ(Machina)」はラテン語で「機械」を意味する。「機械」の名を持つ星の生命体が、他の星の機械に翻弄されるという皮肉である。または「丸いけどキューブ」に通じる言葉遊びだろうか。

ベヒーモスが逃亡してからは、LEVEL 1(1階)とLEVEL 2(2階)に出現するようになるが、コギトエルゴスム号においてフロアを移動する方法はエレベータと通風孔しかない。
通風孔はどう見てもベヒーモスが通れるとは思えない上、4足歩行でハシゴの上り下りは不可能だろうから、エレベータを使ったとしか考えられない。OD-10がベヒーモスを誘導していたのだろう。
(キューブもハシゴの上り下りができる構造には見えないが、ゲーム画面では背面を向けた状態でハシゴを上下移動しており、プレイヤーには見えないが何かしらの方法で器用に移動しているのだろう。……おそらくだが)

田村由美先生によるベヒーモスのデザイン画は「ライブアライブ オリジナル+HD-2D イラストレーションズ」などで見ることができるが、デザイン画には「キリンビール+ドドンゴということで…」というメモがある。
「キリンビール」はロゴデザインの「麒麟」、「ドドンゴ」は特撮「ウルトラマン」に登場する「ミイラ怪獣 ドドンゴ」のことと思われる。
本作のベヒーモスの見た目に反映されており、特にリメイク版ではデザイン画にかなり忠実なドット絵となっている。

本作においては「異種生命体」「軍が捕獲した新種の生命体」であり、作中でどのような経緯で「ベヒーモス」という名前が付けられたのかは不明であるが、便宜上付けられたコードネームのようなものだったのだろうか。
リメイク版ではベヒーモスのTIPSで識別番号が「SHVC-5V」と表記されているが、これはSFC版「ライブ・ア・ライブ」の型番である。
また、TIPSでは、

識別番号:SHVC-5V
危険度:DESPERATE(厳重注意)

とあるのだが、この書き出し方は2008年開設の共同創作コミュニティ「SCP財団」(SCP財団 - Wikipedia)の「アイテム番号」「オブジェクトクラス」の記述っぽくなっている。
「SCP財団」に投稿される創作物はSFやホラーが多く、ジャンルとして本作との共通点があるが、元ネタとしているかどうかはわからない。

キャプテンスクウェア

キャプテンスクウェア関係のネタをまとめて紹介。

キャプテンスクウェア

キャプテン・アメリカ - Wikipedia

「キャプテンスクウェア」の名称は、アメコミヒーローの「キャプテン・アメリカ」(コミック初登場は1941年)と、開発元のスクウェアから取られたものと思われる。
キャプテンスクウェアのデザインもアメコミっぽい。

また、主人公のキューブ(cube、「立方体」)に対してのスクウェア(square、「正方形」)の意味もかかっているかもしれない。
キューブは三次元の立体物であることに対し、「ゲームキャラ」であるキャプテンスクウェアは平面上、つまり二次元世界の登場人物というメタな意味にもなる。

なお、「キャプテン・●●●●●」という名称は、「キャプテン・アメリカ」以外にもフィクションに多数存在するため、他のネタも考えられる。
SFネタだとエドモンド・ハミルトン氏による小説「キャプテン・フューチャー」(キャプテン・フューチャー - Wikipedia、1940年~1951年発表。日本では1978年~1979年にアニメを放送)や、1977~1979年連載の松本零士氏原作の漫画「宇宙海賊キャプテンハーロック」(宇宙海賊キャプテンハーロック - Wikipedia、アニメ版もある)などが挙げられるだろうか。

キャプテンスクウェアのスキル

物理学・宇宙物理学の用語が多数含まれている。
「ファージ」のみウイルスのこと、つまり生物学からのネタだが、「スペースファージ」という名前から「宇宙の未知のウイルス」のような意味だろう。毒麻痺弾を放つ技という説明があるので、宇宙の未知のウイルスが生み出す毒を利用している、ということかもしれない。

ARUMAT SOFT

タイトル画面、クリア時のクレジット表記にあるキャプテンスクウェアの(架空の)開発メーカー。リメイク版ではTIPSでも言及されている。
ARUMATを逆から綴ると「TAMURA」、つまりデザイン担当の漫画家・田村由美先生のことである。
また、タイトル画面右下に登場するフクロウのイラストは、田村由美先生の漫画「BASARA」に登場するフクロウの新橋そっくりである。

クリア時には(架空の)スタッフロールが流れるが、明らかに本名とは思えないペンネームらしきものが並んでいる。
ファミコンや同時期のPCゲーム・アーケードゲームのスタッフロールといえば、開発スタッフは本名ではなくペンネームが並ぶのが恒例であったので、そのパロディと思われる。
当時、なぜ本名ではなくペンネームを掲載していたのかについては様々な理由があったようなので(理由はひとつではなく、メーカーによっても事情が異なっていたようである)、気になったら調べていただきたい。

ステージ名

キャプテンスクウェアは全9ステージで、それぞれが太陽系の惑星の名称となっている。
順に「MERCURY」(水星)、「VENUS」(金星)、「EARTH」(地球)、「MARS」(火星)、「JUPITER」(木星)、「SATURN」(土星)、「URANUS」(天王星)、「NEPTUNE」(海王星)、「PLUTO」(冥王星)。

冥王星 - Wikipedia

冥王星は1930年に発見されてから2006年まで太陽系の惑星であり、SFC版が発売された1994年もまだ冥王星は太陽系の惑星であったから、最終ステージとして冥王星が設定されている。
リメイク版発売時には冥王星は太陽系の惑星ではなくなってしまったが、キャプテンスクウェアでは特に変更点はない。
リメイク版設定の「1994年9月2日発売のレトロゲーム」ならば、冥王星を太陽系の惑星として扱っていて不思議はない、ということでリメイク版でこのような説明が追加されたのかどうかは不明。
何にせよ、冥王星を最終ステージとすることで、レトロゲーム感が増すことになるとは、SFC版発売当時は誰も考えもしなかっただろう。
太陽系の惑星の定義が変更されて、惑星だった冥王星が惑星ではなくなってしまうなど(一応「準惑星」ではあるが)、天文学に詳しくない一般人には思いもよらぬ出来事だったのである。

1994年9月2日

リメイク版TIPSでは「1994年9月2日発売のレトロゲーム」とされているが、この日付はSFC版「ライブ・ア・ライブ」の発売日である。
ただし、ゲーム内ではクリア時に「PRESENTED BY ARUMAT SOFT 2099」と表示されるため、カークが持ち込んだ筐体は2099年にリメイクか移植などがされたバージョンということになるのだろうか。
また、この点からSF編の舞台は2099年以降と考えられる(ただし西暦かどうかは不明)。

金色のソフト

リメイク版TIPSでは、キャプテンスクウェアのハイスコアを争う大会で上位入賞者には金色のソフトが送られ、高額で取引されているとある。
実際に非売品の金色のカートリッジソフトが高額で取引されている例として、ファミコンの「ロックマン4」「パンチアウト!!」「オバケのQ太郎」「キン肉マン マッスルタッグマッチ」などいくつか存在しており、これを元ネタとしたテキストと思われる。
キャプテンスクウェアに「金色のソフト」が存在するということは、元の「キャプテンスクウェア」はカートリッジタイプのゲームソフトなのか、カークが持ち込んだ筐体のようにアーケードゲームとしても展開していたのか、それともカークはカートリッジタイプの「キャプテンスクウェア」が動く端末(だとしたら相当旧型のコンピュータだろう)を持ち込んだ、ということになるのか、そのあたりは謎である。
「ハイスコアを争う」割には作中ではスコアが一切表示されない、という点でもカークが持ち込んだ筐体には謎が残る(本作の戦闘の仕様を流用したため、スコアが表示されないのはメタ的には仕方のないことである)。

「キャプテンスクウェア」はレトロゲームである上に「金色のソフト」の設定から、ファミコンソフトを強く意識していることがわかる。
BGMの「CAPTAIN SQUARE」「星屑のキャプテン」も、ファミコンの内蔵音源風、いわば8bitサウンド風味であり、リメイク版でも「CAPTAIN SQUARE」は編曲されずSFC版の原曲がそのまま使われている(と思われる)。ただし「星屑のキャプテン」はアレンジされている。
ファミコンソフトはスーパーファミコン発売(1990年)後、SFC版「ライブ・ア・ライブ」が発売された1994年でもぎりぎり新作が発表されていた。
タイトル画面もファミコン時代のドット絵っぽさが漂っているが、一方でキャプテンスクウェアが回転しつつ拡大してくるのは、スーパーファミコンのグラフィック機能の特徴である(本作において、黒背景に三角形の切り抜きが回転するような形で戦闘画面に移行するのも同じ仕組み)。リメイク版でも拡大縮小・回転を利用した演出はきちんと再現されている。

敵の元ネタ

マザーCOMについては「エイリアン」の項目で説明した通り。
なお、ラストバトルであるマザーCOM&スタビライザー戦は、本作と同時期に開発・発売された「クロノ・トリガー」における未来のコンピュータ、マザーブレーン&ディスプレイ戦と似た要素が多い。「マザー」の名を冠するコンピュータの暴走、お供として出現するスタビライザーとディスプレイはどちらもHP回復しか行わない、など。

クリッカーロック

「Clicker Rock」なら「クリック音を発する岩」のような意味。
リメイク版収録の英語版では「Clickarock」、つまり「Click a rock」(岩をクリック)なのでこちらの方が英語としては意味が通じるだろうか。
「KMGLEDR」「KRKZARM!」といった、全く意味がわからないスキルを使用するが、これがクリックした時の音なのだろうか。いずれにしても謎である。

ヘディングバード

使用スキルに「ヘディング」がある、羽が生えた見た目なので鳥(バード、bird)っぽい、とそのままの命名だろう。

ファイア&ウォーター

「ファイア(fire)」「ウォーター(water)」と、ヘディングバード以上にそのまま。

技名だが、ウォーターの「アクアフレア」、ファイアの「ペトリフレア」ともに、「フレア(flare)」部分は炎や爆発による攻撃であることを示していると思われる。「フレア」自体はスクウェアのゲームの炎・爆発系魔法の名称でもおなじみ。
この「フレア」の前に「アクア(aqua)」をつけることで「アクアフレア」で水属性の爆発ということだろう。
「ペトリフレア」の「ペトリ」部分は、「石化する、硬直させる」などの意味の「petrify」から取られていると思われる。石化の追加効果付きの爆発という意味合いなのだろう。

ファイア&ウォーターが出現するステージは「EARTH」(地球)であり、液体の水が豊富に存在していることからウォーターを敵として設定したのではないかと思われる。ファイアは火を扱う人類の象徴の意味合いであろうか。

マザーテイル&パピーテイル

「Mother tail」と「Puppy tail」であろう。「tail」は「尾」なので見た目から。
「Mother(母)」と「Puppy(子犬)」なので、一応親子という設定なのだろう。

技の「シュリンピング」は「shrimp(エビ)」「shrimping(エビ漁)」から。これもマザーテイル&パピーテイルの見た目からだろう。
「リストレーション」は「restoration(修復、復元)」、「ラブヒーリング」は「love(愛) healing(癒し)」と、英語そのままの意味。

デザイン面では映画「エイリアン」に登場するエイリアンをモチーフとしているようにも見える。

コスモストローラ

「Cosmo Stroller」なら「宇宙の放浪者」のような意味合い。

技の「パルサーウォーク」は、物理学の用語「パルス」「パルサー」から取られたと思われる。

リメイク版収録の英語版では「パルサーウォーク」が「Pulsing Wake」となっており、こちらだと「電気信号の痕跡」のような意味合いであろうか。
電撃地形を発生させる(痕跡を残す)という、技の効果とも合致している。

ジェムパラペット

パラペット - Wikipedia

「Gem」と「parapet」に分けると、「Gem」は宝石、「parapet」は欄干、屋上などの周囲を囲む低い壁のこと。
リメイク版収録の英語版でも「Gemparapet」である。

二酸化ケイ素 - Wikipedia

ジェムパラペットの技「SIO2」は二酸化ケイ素の化学式「SiO2」から。石英(クリスタル)はSiO2の結晶である。
「シリコン樹脂」という技も使うが、シリコン(silicon)はケイ素の英語名。
「シリコン樹脂」はケイ素を含む合成樹脂のことであるから、「SIO2」「シリコン樹脂」ともにケイ素化合物のことである。
化合物が技名というのもよくわからないといえばわからないが、石英をぶつけるとか、樹脂で固める攻撃といったイメージなのだろうか。ゲーム内のモーションではいまいちわかりにくい。

エレ・ミラージュ&ピムリ

「ミラージュ」は「mirage(蜃気楼)」のこと。
英語でも「mirage」と表記するが、元はフランス語であり、ここにスペイン語の定冠詞「El」がついて「El Mirage」である。
なお、アメリカには「エル・ミラージュ」という地名が実際にあったり(エル・ミラージュ (アリゾナ州) - Wikipedia)、「El Mirage」という楽曲も多い。

ただしリメイク版収録の英語版だと、エレ・ミラージュが「Electric Mirage」となっているため、日本語版も「Electric Mirage(エレクトリック・ミラージュ)」の意味なのだが、技名が最大8文字の制限があるため、縮めて「エレ・ミラージュ」とした、という可能性がある。
技の「エレクトンナイフ」も、文字数制限で「エレクトロンナイフ」を1文字削った可能性がある。英語版では「Electron Knife」である。

「ピムリ」については、これといって元ネタらしいものが見当たらない。
強いて言えば、SFC版だと電撃地形のビジュアル(=SFC版におけるピムリのビジュアル)が真上から見たピラミッドのように見えなくもないため、「ピラミッド(Pyramid)」から取ったという可能性があるかもしれない。
リメイク版収録の英語版だと「Pymli」だが、このような単語はどの原語にもないようである。一応「Pyramid」からの造語という可能性はなくはないが……。

ラ・ラ&ラ・ル

わんわん物語 - Wikipedia

ラ・ラとラ・ルの元ネタははっきりしない。
あり得そうなのは1955年のディズニー映画「わんわん物語」の挿入歌「La La Lu(ララルー)」である。子守唄であり、歌詞に「きらめく星」という言葉も入っている。

使用スキル「すたーばすたー」は、1990年発売のスクウェアのRPG「Sa・Ga2秘宝伝説」のラストボス・最終防衛システムの使用技「スターバスター」が元ネタと思われる。
「スターバスター」は全体攻撃であり、本作の「すたーばすたー」も範囲攻撃で、どちらも威力は高い。
「Sa・Ga2秘宝伝説」については幕末編解説でも触れているので参照のこと。

「スターバスター」自体は「star(星)」「buster(破壊するもの)」の意味。

ポルカドット

「polka dot」は英語で「水玉模様」のこと。
つまりポルカドットの見た目そのままである。

トペ・スイシーダ - Wikipedia

使用技の「トペ・スイシーダ」は、実在するプロレス技である。
体当たりを行うダイブ技であり、本作でも遠距離から体当たりを仕掛けるという形で再現されている。

スタビライザー

スタビライザー - Wikipedia

英語の「stabilizer(安定させるもの)」から。自動車や飛行機などの部品名(安定化装置)として知っている方も多いだろう。
技の「システムリカバー」も「system(システム)」「recover(回復する)」と、技の効果そのままである。

HUMANISM

キューブのスキル8種の頭文字を繋げると「HUMANISM」、ヒューマニズムとなる。
キューブのスキルの説明で「M/精神解析:相手を眠らせる」のように頭文字を強調していることから気付いたプレイヤーも多いだろう。
各技の名称自体は英語由来である(「ハイスピードオペ」の「オペ」部分は手術のことだが、手術をoperationから「オペ」と言うのはドイツ語由来。日本における医療用語はドイツ語由来が多い)。

技名英語表記
ハイスピードオペHigh speed ope(ration)
アップグレードUpgrade
マインドハックMind hack
アンチフィールドAnti field
ノイズストリームNoise stream
インフォリサーチInfo(mation) research
スピンドライブSpin drive
メーザーカノンMaser cannon

humanism / ヒューマニズムは、カトゥーがキューブに込めた「人間性」「人道主義」のことだが、人間の尊厳を重んじる意味でのヒューマニズムは、英語だとhumanismとは区別してhumanitarianismとする場合があるとのことである。

作業用の機械として登録した割には物騒な武装がちらほら見られるような気もするが、カトゥーが何を考えて設定したのかはよくわからない。
リメイク版ではカトゥーが自室に「ブリキ製の年代物のロボットのおもちゃ」を置いており、ブリキ大王のようなスーパーロボットに憧れがあったことが示唆されているので、戦闘用ではなく、単純に「かっこいいから」などの理由で設定したのかもしれない。
SF編ではキューブがメインコンピュータにハッキングした際に、「キャプテンスクウェア」のプログラムを利用して自らの技を披露した、ということになるのだろうが、最終編では実際の戦闘で役立つことになる。

リメイク版ではキャラクターのモーションのパターンが増え、SF編は特にキャラの演技の幅が広がり演出が強化されているが、キューブが徐々に「学習」していく過程も注目である。
最初にカークが亡くなった際に遺体を調べると、単純に「遺体を観察した」様子がテキストとして表示されるのみだが、終盤、キューブがひとりでベヒーモスに追いかけられる場面でコールドスリープルームに行くと、リメイク版ではレイチェルのカプセルが停止しているのに気づいたキューブが明らかに悲しげな様子を見せる。
そして最終編でキューブを主人公にした際、ベストエンドで追加されたキューブに関する演出は、「人間でありながら人間を憎み否定する魔王」に対して「人間性とは何か」を伝える重要なシーンとなった。

なお、リメイク版の英語版では大半の技名が異なるのだが、スキルの説明で補足することで一応は「HUMANISM」を再現している。

日本語版英語版英語版説明英語版日本語訳(※)
ハイスピードオペData RecoveryProtocol H. Execute high-speed operation targeting allies to restore minor quantity of HP / remove paralysis, petrifaction, and martial and agile restrictions.味方を対象とした高速手術でHPを小回復/麻痺・石化・腕封じ・足封じを解除
アップグレードRepair and RestoreProtocol U. Restore very minor quantity of HP / upgrade offensive and defensive attributes.HPを微回復/攻撃・防御能力をアップ
マインドハックForce ShutdownProtocol M. Target aggressor's higher faculties and attempt to induce sleep.対象の頭脳を狙い、眠らせる
アンチフィールドFirewallProtocol A. Arm offensive countermeasures to be triggered in response to perceived aggression.対象から攻撃されたと認識された場合に発動する対抗手段
ノイズストリームPacket LossProtocol N. Activate aural disruptors to damage and reduce effectiveness of all aggressors.聴覚撹乱装置を作動させ、すべての対象にダメージを与え、機能を低下させる
インフォリサーチHP LookupProtocol I. Analyze aggressor capabilities and reduce effectiveness.対象の能力を分析し、能力値を下げる
スピンドライブSpool UpProtocol S. Achieve high rate of spin via rapid engagement of motors before advancing towards aggressor.対象への突撃前にモーターを高速起動させ、高速回転を行う
メーザーカノンMaser CannonProtocol M. Engage accelerated particle weapon to fire highly damaging penetrative beam at aggressors.加速粒子砲を作動させ、対象に大ダメージを与える貫通ビームを発射する

(※)筆者による意訳につき、ミスがあるかもしれない。

コギトエルゴスム

我思う、ゆえに我あり - Wikipedia

船名の「コギトエルゴスム」は、ラテン語の「Cogito ergo sum」から。
哲学者ルネ・デカルトの自著『方法序説』(Discours de la méthode / 1637年)の中で提唱した命題のことで、日本では「我思う、故に我あり」という翻訳で有名。
SF編サブタイトルの「機心」、つまりキューブやOD-10のような「機械」に「心」はあるのか、「機械」に「心」があるとはどういうことなのか? という問いに対するひとつの答えかもしれない。

また、魔王オディオは、キューブやOD-10を「心を持つもの」と見なし、OD-10には「人間に対し憎しみを抱く存在」として力を与え、キューブは他シナリオの主人公たち同様に「人間の心を持っている存在」として最終編の世界に呼び寄せている、という点にも注目。
(最終編でキューブを主人公にすると、冒頭でキューブのことを「人の心を得し者」と呼ぶが、ベストエンド時には「人の心を持たない機械になど‥‥」と矛盾した発言をするあたりに、魔王オディオの心境が垣間見える)

人間を模倣した機械が本当に心を持つのか?
人間の心を模倣しているだけではないか?
模倣しているだけだとしても、人間から見て心があるように感じるのであれば、それは心を持っていると見なして良いのだろうか?
そして人間は、「心を持つもの」と「心を模倣しているもの」の区別ができるのか?
……などについて興味を持ったら、「心の哲学」「人工知能の哲学」について調べてみても面白いだろう。
上項目はその一例である。

パスワード「OAKFDE」

並べ替えて「OD FAKE」、つまり「OD(-10)は偽物」という説があるが、やや無理やり感が否めないと筆者個人は思う。
実際のところは不明である。


おまけ 各種考察

SF編はシナリオの性質上、様々な考察が可能であり、元ネタと関係がある部分についてはここまででも記している。
その他、元ネタには絡まない範囲の考察についてここで記すが、興味がなければ読み飛ばしていただいて構わない。

宇宙服の謎

エアロック右隅には、宇宙服が並べられており、調べると誰のものかわかるようになっている。
SFC版ではカトゥー、カーク、レイチェルの3人分のみだが、リメイク版では更にヒューイ、ホル船長、軍のものと思われる6人分の宇宙服が並べられている。
SFC版では各自の名前のみが記されていたが、リメイク版ではフルネームが記されている。
リメイク版における右下の宇宙服には名前ではなく「宇宙軍 04486X/XR」と記されているが、「宇宙軍」とあることからおそらくはダース伍長が持ち込んだものだろう。「04486X/XR」は軍における伍長のIDであろうか。

この宇宙服だが、ストーリーの進行により位置が変わる。
最初は全員分揃っているが、序盤にカトゥーとカークが船外作業をする際には、ふたりがそれぞれの宇宙服を着用して出ていく。
このイベントの後、一度、全員がエアロックから出ていくが、この時にエアロックに戻ると、何故かレイチェル用の宇宙服が外されて下に落ちている。
リメイク版では他の三人の分はそのままで、レイチェルの宇宙服だけが落下している状態なので、SFC版よりも異常さが強調されているようでもある。

船外作業中に事故が発生してカトゥーがカークを連れ船内に戻るが、攻略上、この事故の時にエアロックに行く必要はなく、治療室に行くとイベントが進行する。
治療室に行く前にエアロックへ行ってみると、SFC版ではカトゥーとレイチェルの宇宙服は元の位置に戻っている。
リメイク版では、ロックの前の床にカトゥーの宇宙服が置かれている。船内に戻ったカトゥーがその場で急いで脱ぎ捨てたという演出だろう。またレイチェル用の宇宙服は相変わらず下に落ちたままである。
緊急事態なのにわざわざ元の位置に宇宙服を戻す余裕などなかったのではないか、ということでリメイク版ではカトゥーの宇宙服が床に放置されているという状態に変更されたのかもしれない。

一方、カークは宇宙服を着たまま治療室へと運ばれており、治療の際に宇宙服を脱がされている(後にレイチェルの部屋へ移動)。以後エアロックにカークの宇宙服が戻されることはない。

アンテナが吹き飛んだことが発覚した後はリフレッシュルームにカトゥー、ヒューイ、ダース伍長の3人が集まるが、リメイク版においても、この時点からエアロックの宇宙服はカークのもの以外、きちんと並び直されており、レイチェルの宇宙服も元に戻されている。カトゥーかヒューイが整頓したのだろうか。

以上のとおり、SFC版でもリメイク版でも、レイチェルの宇宙服だけが不思議な挙動をしている。リメイク版でも同様の状況なので、SFC版における何かのミスやバグではなかったことも明白である。
もし、船外作業中の事故の後だけ、レイチェルの宇宙服が下に落ちていたのであったら、カークを迎えに行くため、レイチェルが宇宙服を着ようとした痕跡かもしれない、という想像ができたのであるが、何故かカトゥーとカークが船外へ出て行った直後、つまり事故の前からレイチェルの宇宙服は下に落ちている。
カトゥーとカークが船外活動をし始めてから、全員がエアロックを一度出ていることから、レイチェルの宇宙服が下に落ちたのは、エアロックが無人の時になってしまう。ということは、SF編の黒幕がOD-10であった以上、OD-10が何かの意図で行ったことになる(偶然落ちたという可能性もあるが、その偶然をSF編のシナリオ中で描写する必要性はあるだろうか?)。
カークの宇宙服の生命維持装置に予め細工し故障させたのはOD-10であろうから、もしかするとOD-10はカークの宇宙服だけではなくレイチェルの宇宙服にまで細工をしていたのかもしれない。
カークの異変に気づいた時、レイチェルはエアロックへ向かうとヒューイに言っているが、ヒューイはそれを制している。
もしレイチェルがエアロックへ向かっていたら、そしてカークを救出しようと船外へ出ようとまでしていたら、この時にレイチェルも宇宙服を着ていたら……
OD-10はレイチェルが無謀な行動に走る可能性も予測していたのだろうか?

また、わざと宇宙服を落とすことで、レイチェルに宇宙服を着るよう誘導するつもりもあったのかもしれない。
後に、OD-10はカークを装ってメッセージを送り、レイチェルにエアロックに来るよう誘導している。
これも、レイチェルに宇宙服を着せようという目的であったとすれば、序盤での宇宙服の挙動の理由が説明できる。
もっとも、この時レイチェルは混乱しており、宇宙服なしでロックを開けようとまでしたのだが。

SF編は、上の宇宙服の件も含めて、ストーリー進行による細かな変化が多い。
攻略にも記したが、偽キューブは序盤からLEVEL3の下の方の倉庫に置かれているキューブのプロトタイプ02をOD-10が悪用したものであり、ベヒーモスから逃げている最中、LEVEL1と3の罠を抜けたタイミング以降、LEVEL3倉庫からなくなっている。
終盤、偽キューブと対決する時、伍長が「レイチェルのカプセルを止めたのもこいつに違いない!」とキューブが犯人と決めつけるのだが、キューブがひとりでベヒーモスから逃げ回っている最中にコールドスリープルームに寄り道しないと、レイチェルが亡くなっているのを確認できるイベントが見られないので、プレイヤーの行動次第では伍長の発言の意味がわからなくなってしまう。
このキューブがひとりで逃げ回ることになるイベントからは船内の端末の反応もおかしくなっていくが、SFC版では治療室入口の滅菌室の滅菌作業まで停止してしまう。リメイク版ではどのタイミングでも作動するが、変更した理由はわからない。内部のテレメータなどは作動し続けているので、そちらに合わせた形だろうか。
ダクトでベヒーモスの鳴き声が聞こえるイベントや、ラストバトルでマザーCOMを向き変えするとまったく異なる姿になることなど、小ネタも満載なので、再プレイするのならあちこち寄り道をして、色々なネタを見つけていただきたい。

「コロ」について

終盤、カトゥーが「キューブに最初につけようとしていた名前」を答えさせることで、2体のキューブのうちどちらが本物かを見分けようとする。
正解は「コロ」だが、この正解を知っているのはカトゥーと本物のキューブのみである。メタ的に言えば更にプレイヤーも加わる。OD-10がカトゥーの会話を盗み聞きしていた可能性もあるが、作中の描写ではそういうことはなかったようだ。
ここでは正解でも不正解でも、直後にダース伍長が「偽物と判断した方」に攻撃するが、伍長が正解を知っていないとこの展開は成立しない。
ストーリー展開上、カトゥーが事前に伍長に知らせていたとは考えにくいし、そういう場面もない。
または、答えた直後にカトゥーが伍長に合図でもしているのであれば問題ないが、SFC版でもリメイク版でも、そういう様子はない。
真相は謎のままである。

「CAP」「KILL YOU……」は演出?

SF編ラストバトルは、「キャプテンスクウェア」からOD-10に接続し、「キャプテンスクウェア」のプログラムを利用した電子空間上で行われることになる(リメイク版ではハッキングの結果、ラストバトルだけ戦闘フィールドが崩壊しているという演出も加わった)。
「キャプテンスクウェア」は通常プレイだと、最初に「CAPTAIN SQUARE」のロゴが一文字ずつ表示されるのだが、ラストバトルの時は「CAP」の3文字まで表示された後、「KILL YOU……」というOD-10のメッセージが表示され、ラストバトルへと突入する。
この場面の「CAP」「KILL YOU……」は、「CAP」が英語で「帽子」なので、帽子を被っているキューブに対しての「KILL YOU……」というメッセージでは? という噂話がある。
だが、2025年9月2~3日開催のスクウェア・エニックスチャンネルの生放送「LIVE A LIVE Music Special Live Stream」(現在視聴不可)のコメント欄にて、時田貴司氏は「CAP」で切れて帽子=キューブへのメッセージのようになったのは偶然だと思うというコメントを残している。他スタッフが意図して仕込んだ可能性は残っているが、少なくとも、時田氏としては意図して仕込んだネタではないようだ。

レイチェル・カーク・ヒューイの三角関係について

恋愛関係についてあれこれ言うのは、当人たちからすれば大きなお世話であろうが、少しだけ考察を記しておく。

序盤のブリーフィング後、コンテナエリアでカトゥーとヒューイの会話があるが、ここでカトゥーが、
「僕は最近… レイチェルさんのことが分かりません」
「カークさんとヒューイさんて まったく違うタイプじゃないですか…」
(※セリフはリメイク版から引用)
と、ヒューイに話している。
つまりレイチェルがヒューイを振ってカークと恋愛関係になった理由がわからない、とカトゥーは言っているのである。
カトゥーはカークの人柄を「苦手」とする一方で、ヒューイの人柄を評価しており、カトゥーの視点では「良いひと」のヒューイから「苦手なタイプ」のカークへとレイチェルが恋愛対象を変えた理由がわからない、とヒューイを気遣っての発言だったのかもしれない(メタ的に言えば、このシーンの会話は登場キャラの性格や人間関係の説明も兼ねている)。
だが、カトゥーの疑問は、不思議でも何でもない話である。
レイチェルからすればヒューイは「優しいが、それ故に物足りない」タイプであり、レイチェルはヒューイと付き合う中で物足りなさに気づいたのだろう。
だからこそヒューイとはタイプが異なる、グイグイ引っ張ってくれるようなカークに惹かれた、という経緯なのではないだろうか。
カークの部屋に残されたダイアリーや船内通信のやりとりでも、レイチェルに対して積極的かつ、真摯な態度がうかがえる。
レイチェルは、カークの危機に際し、ヒューイがカークなら大丈夫だと励ましただけなのに「あなたに何がわかるの!?」と激昂しており、カークが亡くなった後は混乱していたとはいえ「よりを戻したいからヒューイがカークを殺害した」とまで発言するなど、ヒューイとレイチェルの間のすれ違いが相当のものであることが推察できる。
カークがヒューイに対して「レイチェルはおまえに愛想をつかしたんだ」と言っていることからも、レイチェルにとってヒューイは理想としていたタイプではなかったことがうかがえる。
SFC版の時点でもヒューイは船長資格試験に不合格となっており、リメイク版ではカークの私室にあるトロフィー類から、何かしらの功績で表彰されるほど優秀であることが描写され、人格面は横においておくとしても、ヒューイよりもカークの方が仕事ができる人物であり、その面でもレイチェルはカークを評価したのかもしれない。
カークが亡くなってから、レイチェルは精神的に不安定になっていくが、カークに対して恋愛対象としてだけではなく、やや依存するくらいに頼りにしていたため、あれほど混乱したのではないだろうか。

一方カークはヒューイに対し敵対心を剥き出しにしているが、もしカークに自信や余裕があれば、ヒューイに対してあそこまで悪質な態度は取らないだろう。
つまり、カークの態度は、ヒューイにレイチェルを奪われてしまうのではないかと恐れている証左でもある。
とはいえ、レイチェルの態度からして、彼女はヒューイとよりを戻すつもりはなさそうな一方、ヒューイの方はレイチェルに未練があるのが見え隠れすることもあり、カークからすれば単純に腹立たしいだけかもしれないが(だとしてもヒューイに暴力的な態度で詰め寄るのはやり過ぎである)。

更に言えば、以上の人間関係はコギトエルゴスム号という閉鎖空間の中のたった5人の乗組員(臨時で乗り込んだダース伍長は除く)によるもので、コールドスリープ技術が利用されていることからも5人は長期間同じ船の中にこもりっきりであり、おそらく外部の人間とのプライベートな交流がほとんどない、という、ある意味異常な状況下であることも考慮するべきだろう。

ホル船長について

SF編終盤に、自室に閉じこもっていると思われたホル船長は実は亡くなっていたことが判明する。室内に残っていた録音データからして、OD-10が室内の空調設備を意図的に操作し船長を死に至らしめたのだろう。
この時に船長は咳き込んでいるため、室内に毒ガスの類を流し込まれたのでは? どうして民間の船に毒ガスが? という意見もインターネットでは見かけるが、必ずしも人間を殺傷する目的のガスが使われたとは限らないことに注意。例えば治療室の出入り口でも使われている、消毒・殺菌用のガスは、取り扱いを間違えれば人間にも害があるだろう。現代で言えば、プールの消毒用薬液の取り扱いを誤り、塩素ガスが発生して人体に影響が出る事故が実際に起きている。

それはそれとして、ホル船長が亡くなったのはいつだったのだろうか。

作中の描写から、OD-10に「ホル船長の顔や声を合成し、あたかも本人が応答しているかのような動画をリアルタイムで生成する機能」があった可能性は高い。もしないとしても、それまでのホル船長の行動を大量に録画・保存しておいて、必要に応じて使い分けて再生していたのであろう。
メタ的な話をすると、SFC版発売の1994年の時点で、開発スタッフが「OD-10が乗組員を騙すため、ホル船長の偽映像を見せる」仕組みとして、どういう技術を想定していたのかはわからない。2020年代におけるディープフェイク動画のような技術まで予測していたか、1994年でもどうにか実現できる技術である、生きていた頃のホル船長の動画をツギハギしたものを使うことを考えていたか、本作の演出だけでは判断ができない。

確実な判断材料をゲーム内の台詞などから取り上げてみる。
SF編開始の前日、カトゥーとホル船長が実際に顔を合わせていたことは、カトゥーの個室のコンピュータの「コジン ファイル ダイアリー」に記されている。
コールドスリープからひとり早く目覚めたカトゥーは、他の乗組員がコールドスリープから起きる前日、船内の見回りをしてからキューブ(プロトタイプ03)のテストをしており、そしてこのタイミングで「船長が覗きに来た」と記しているため、船長は生存していたということになる。
また、生身の船長が最後に確認されたのはこのタイミングということになるだろう。

もうひとつ、ホル船長の個室の録音を再生すると、ホル船長は外部と交信している最中に亡くなっていることがわかる。
一方、レイチェルが通信システムの不調により船から外部に情報を送信できないことに気づいたのは、序盤のブリーフィング後にコックピットで計器をチェックしている時である。
このタイミング以降、コギトエルゴスム号は外部に情報を送れなくなっているので、ホル船長が最後に交信したのはこれ以前と推測できる。
つまり、少なくともブリーフィングから後の映像のホル船長は、OD-10が合成なりして作った偽物だろう。
実際に、このタイミング以降の船長の様子がおかしいことに乗組員は気づいている。レイチェルは応答の遅れに対し船長の具合が悪いのかと疑ったり、カトゥーは「船長どうしちゃったんだろう‥‥」と口にする場面がある。
会話がちぐはぐな場面があるのは、OD-10のリアルタイム合成の処理速度が実際の会話に追いついていなかったり、OD-10が本物のホル船長を理解しきれていなかったからだろうか。

ブリーフィング時の船長が本物だったかどうかは判断が難しい。
カトゥーとは、キューブについて会話を交わしており、OD-10が船長の映像を事前に作っておいて再生しただけでないことは明らかである。
リメイク版ではボイスがついているが、中盤以降の「いかにも怪しい雰囲気の船長」の声の調子ではなく、通常の会話を交わしているように聞こえる。
よって、ブリーフィング時までは船長は生存しており、この後にレイチェルがアンテナのチェックをするまでの短い間に殺害された、という可能性もある。
ただし、船長の様子が明らかにおかしくなってきたと思われる、カークが亡くなったことを報告した時に、映像の船長は「彼を弔ってやろう」と応じており、会話が一応成立している。つまり、OD-10はホル船長の顔や声をリアルタイム合成して会話をすることが可能であり、ブリーフィング時のカトゥーとの会話もできないということではなかっただろう。

「乗組員データ」の正体

SF編ラストボス撃破後は、メインコンピュータルームで「乗組員データ」を見ることができる(見る方法はSF編攻略を参照。リメイク版なら、SF編クリアデータを「続きから」でロードすればすぐに見ることができる)。
そこには極秘ファイル「管理システム参考資料 乗組員データ」として、乗組員(ヒューイ、カーク、レイチェル、カトゥーの4人)の評価を前回のデータと比較した内容が掲載されており、最後には「事故発生率プラス、改善の可能性なし、配置転換の必要性あり」と記されている。
このデータはいつ、誰が書いたものなのか、SFC版発売の頃からプレイヤーの間で議論の的となっていた。
誰が書いたのかについては、ホル船長か、OD-10のどちらかであることは間違いないだろう。
OD-10には筒抜けであったとはいえ船長用のパスワードがないと閲覧不可であることと、ホル船長以外の乗組員4人についての評価が記されていることから、ホル船長による報告書であり、この内容をOD-10が知ったために暴走した、という見解が一般的のようである(筆者がインターネットで調べた限りでは、このような見解が多いようである、ということであって、他の意見ももちろんある)。

ただし、時田貴司氏はXで、ホル船長がこの乗組員データを記したのではない、と解釈できる回答を提示している。
X - Takashi Tokita / 時田貴司(2020年3月28日)
船長は乗組員たちのいざこざを放置していたのでしょうか? という質問に対して、「船長の前では皆うまく振る舞っていたんじゃないでしょうか?」と時田氏は回答しているため、船長は乗組員たちのいざこざ自体を知らなかった、という前提になる。
そうだとしたら船長が乗組員たちについてマイナス要素だらけの報告を記し、かつ乗組員たちに何も知らせずにいたとは考えにくいため、OD-10による記録という解釈もできる。
更に、OD-10にとってホル船長は、「これだけ問題があるのに何も気づかない」と、更に不満を募らせる因子だったということになる。

一応、思いやりのある船長だからこそ、逆に船員たちの関係に薄々気づいていて、彼らの将来のため、評価だけは冷静に記して配置転換を促そうとしていた、という可能性も残ってはいる。
ゲーム内の描写だけではホル船長の人物像が掴みにくいので、結局はどれも推測になってしまうが。

船長用のパスワード「OAKFDE」も、OD-10から教わるため、本当に船長が設定したパスワードなのか、OD-10によって捏造、または勝手に改変されたのかわからない。
ただし、OD-10から聞いた時点で船長室の扉が開かなかったのはOD-10が船内の機能を掌握していたというだけかもしれない。
ラストバトルの後、OD-10の支配から逃れた船内では、「OAKFDE」でメインコンピュータルームのデータを閲覧可能であるから、船長がパスワードを「OAKFDE」と設定していたと考えると筋が通るようである。
(ゲームの展開に野暮なツッコミではあるが、緊急事態とはいえ船長の部屋のパスワードを尋ねたら教えてくれる管理システム自体もどうなのかという気もする)

リメイク版では、ホル船長の個室の机に置いてあるパソコンを調べると、埃が溜まっていて長いこと使われた様子がない、と表示される。
この描写がリメイク版で付け加えられた理由は何なのだろうか。

  1. 船長はパソコンに長いこと触れていない、つまり「ホル船長がこの乗組員データを記したのではない」という時田貴司氏の意見を支持したため。
  2. 船長はパソコンに長いこと触れていない、つまり「ホル船長はかなり昔に乗組員データを記したまま放置していた」という意味になる。もし放置していたというのなら、やはりOD-10は船長に対して不満を募らせることになっただろう。

1.は「ホル船長が書いたのではない」説、2.は「ホル船長が書いた」説から考えられる理由になる。

ただ、ホル船長の個室の机に置いてあるパソコンで、ホル船長が報告書を書くなどのコギトエルゴスム号の仕事をしていたとは限らない。
ホル船長の個室の扉近くのパネルの記録によれば、コギトエルゴスム号について、順調に航行中であることを報告している最中に部屋に閉じ込められ、ガスか何かで咳き込んでいる様子が録音されている。
これはSFC版もリメイク版も共通である。
扉近くのパネルが仕事用のコンピュータ端末であるなら、机のパソコンが使われていようがどうであろうが、乗組員データには関係がない。

結論としては、「作中の描写だけでは、乗組員データをいつ誰が書いたものなのか断言ができない」ということになりそうだ。
シナリオ担当の時田氏の意見が正解であるとしても良いだろうし、プレイヤーそれぞれの解釈でも構わないと筆者個人は思う。

OD-10とキューブの違い

OD-10もキューブも人間の手で作られたAI(人工知能)搭載の機械だが、OD-10とキューブはまったく異なる行動を取った。
二者の違いはどこにあったのか。
それは「AIの学習対象」と、「学習した内容の処理」であろう。
学習対象自体は両者とも「人間」だったが、OD-10とキューブはそれぞれ、同じ船内で人間たちの行動を観察したものの、まったく異なる結論に至っている。
ヒューイはキューブに何にでも興味を示した方が良いとアドバイスし、伍長は最後のシーンで「ヒューイはおまえに学べと言った」とキューブに語るが、実際にはAIに何を学ばせるか、偏りがないように、人間がある程度決めねばならない。
ラストバトル後にはOD-10が、
「船の安全の確保及び、乗員(人間)を守るという使命を与えられたが、その人間たちは調和をなくして船の運行を妨げるという矛盾した行動を取る」
「このため、人間を理解できないし信じることもできない」
と語っていることからも、人間に不信感を抱くに至る決定的な内容を「学んで」しまったことがうかがえる。
(なお、人間の行動の矛盾からAIが暴走するのは、SF編の元ネタのひとつ「2001年宇宙の旅」のAI「HAL 9000」との共通点である)
OD-10がコギトエルゴスム号以外の人間のことを学んでいたら、また違う物語になっていたかもしれない。
ただし、後述するが、OD-10のプログラム自体、つまり「学習した内容の処理」にも問題があったとも思われるので、そうなればコギトエルゴスム号以外の人間にも牙を剥いていただろうか。

人間が集団で生活していれば人間関係に多少の問題はつきものであり、コギトエルゴスム号の乗組員たちは問題を抱えつつも業務に支障のない程度に過ごしていた。
ヒューイは「カークを良くは思っていなかったが、死んでほしいなんて思ったことはなかった」と述懐しているし、カトゥーも「みんな憎しみあっていたわけじゃないし、第一、人を殺すような悪い人たちなんかじゃない」と語っている。OD-10が思い詰めるほど、船内の人間関係が悪化してはいない、というのがカトゥーやヒューイをはじめとする乗員たちの考えだったのだろう。

だが、OD-10は人間関係の問題には限界が来ていて、船の安全の確保には最終手段に出るしかない、つまり人間を排除することで人間関係の問題を完全に解決できる、と判断した可能性がある。
プレイヤー目線でも、カークとヒューイ、レイチェルのやりとりを見る限り、OD-10が何もしなくても、いずれ業務にも影響をきたした可能性は充分に考えられる。
問題は、OD-10の「最終手段」が、人間の殺害という論外な方法であったということである。
本来ならば、人間を殺害するなどというとんでもない行動をさせないため、何らかのセーフティを設けるべきなのだが、学んだ内容を処理した結果、人間関係に問題がある場合の解決方法として「調和を乱す人間は不要であり殺害する」と極端な判断をするに至ったOD-10のプログラムにも何かしらの問題があったと思われる。しかも、一度に全員を殺害するのではなく、人間を試すかのようにひとりずつ殺害していくという方法を選んだという点でも、OD-10の判断能力の危険性がうかがえる。

OD-10のもうひとつの問題点として、人間に完璧を求めすぎた点が上げられる。
OD-10はラストバトル前に「船内の調和を維持するため機能している」と言うが、OD-10が目指す「船内の調和」は理想が高すぎた。
人間はそこまで完璧な生き物ではない。終盤、カトゥーは「みんな、悩みながら、考えながらも、自分の思ったように生きようとしている、ただそれだけじゃないか」と言うが、このセリフが人間を端的に表現している。

そしてOD-10を製造したのは、コギトエルゴスム号とその乗組員たちが所属する『会社』である。
OD-10のみならず、コギトエルゴスム号そのものもフェイルセーフ(故障や誤作動を起こしても安全性を維持するように設計すること)を配慮していないことは、エアロックの二重扉がきちんと機能しておらず、操作次第で生身の人間が宇宙空間に吸い出されてしまう欠陥があることからも、容易に推察できる。この二重扉の機能不全は、序盤にカークが「外へ吸い出されないよう気をつけな!」とキューブに言うことから乗組員たちは前々から知っている故障であり、SF編ラストバトル後でも継続していることからOD-10による罠でもない。
カトゥーはホル船長について、
「いつも僕らのことを心配してくれてたし、かばってもくれた」
「船長は『この会社のやり方は人間らしくない』と言っていた」
と述べており、「かばってもくれた」という発言から、SF編開始前にも『会社』の方針から何らかの問題が起きていたことや、その際にホル船長が『会社』から乗組員たちを守ってくれたことが推測される。
「人間らしくない」会社のやり方も、OD-10の「人間を軽視した」暴走を招いた原因のひとつになったと思われる。

(なお、エアロックの二重扉の件は、メタ的には探索型アドベンチャーゲームにありがちな即死トラップであり、それをストーリーの演出にも盛り込んでいる、ということでもある)

一方キューブを生み出したのはカトゥーであり、そのプログラムには「HUMANISM」こと「人間らしさ」が込められている。
更に、機械を人間と同じように扱い、愛情を注いでいる。
OD-10が製造された目的は「船内の調和を維持するため」であり、ダース伍長は「戦争のため」に製造された機械があったことをキューブに語ったが、キューブが製造された目的は、ラストバトル後にカトゥーに話しかけるとわかる通りに「ロボットを作るのは僕にとってほんの遊びだった」、つまり「知的好奇心を満たすため」である。『好奇心』は人間ならではの「心」のあり方であり、ヒューイの「何にでも興味を示した方が良い」というアドバイスにも繋がる。
結果、キューブは人間に興味を示し、理解し、人間に味方してOD-10と対決するに至ったのだろう。

なお、OD-10と決着をつけるために使われることとなった「キャプテンスクウェア」も、カークが『趣味』『娯楽』のために持ち込んだだけであり、コギトエルゴスム号の運行に必要なものではなかった点にも注目である。
『好奇心』と同じく、『趣味』『娯楽』もまた、遊び心のある人間からしか生まれず、人間を理解しきれなかったOD-10にとってはおそらく無駄なものだっただろうが、皮肉にもそれらが敗因になるとはOD-10も文字通りに計算外のことだったのではないだろうか。

現実でもAIが台頭し、まるで「人間」のように質問に回答してくれるAIが誰でも扱えるようになった2020年代だからこそ、本作プレイ後に「機心」とは何だったのかを改めて考えてみるのもまた一興であろう。



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