基礎知識
戦闘関係
本作は中世編以外の7つのシナリオをクリアすると中世編がプレイ可能になるが、実際にはゲーム制作時、中世編から作り始めた、というのはSFC版攻略本などでも明かされている。
中世編・最終編クリア後に、最初からプレイできる7つのシナリオを再プレイしてみると様々な発見があるだろう。
例えば中世編と原始編では「主人公が相棒と共に、さらわれたヒロインを探すことになり、その過程で故郷から放逐される」という共通点があったり、ストレイボウと西部編のマッドドッグは「主人公に嫉妬する相棒」「最後に主人公との一騎打ちで倒される」という共通点がありながらも役割が全く異なったり(マッドについては一騎打ちの時に戦闘を避けることも可能という意味でも大きな違いがある)、ハッシュと西部編のサンダウンの境遇の共通性、若者を導くポジションとしてのハッシュ・ウラヌスと功夫編の心山拳老師の行動、疑心暗鬼になるルクレチア国民の姿とSF編のコギトエルゴスム号の乗組員たちなど、中世編をモチーフとしたキャラクターや関係性、ストーリーの構造が他シナリオでも見えてくる。
各シナリオの主人公たちが、一歩間違えたら、または何かしらのすれ違いがあったら、オルステッドと同じように悲惨な末路を迎える可能性があった点にも注目である。
最終編で魔王オディオが主人公たちに「他の人間は助けを乞うばかりだっただろう」と言うが、果たしてそうだったか、注目してみるのも興味深い。
本作における「中世編」の「中世」は、いわゆる「中世ヨーロッパ風」の意味であり、「風」がついている以上は「中世ヨーロッパ」と同一ではない。
日本のサブカルチャーにおける「中世ヨーロッパ風」は「剣と魔法のファンタジー」の意味で使われることが多く、日本産のゲームの場合、下で紹介する「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」の影響が多大であることは誰もが認めるところであろう。
更に遡ると、日本の「西洋ヨーロッパ風」の元ネタは海外の神話伝承及び、イギリスのJ・R・R・トールキンの小説「指輪物語」や、ここまででも紹介したTRPG「ダンジョンズ&ドラゴンズ」、コンピュータゲーム「ウィザードリィ」などになると思われる。
本作では、シナリオの名称の大半が各時代に関係する言葉から取られているため、わかりやすく「中世編」としたのだと思われる。
「剣と魔法のファンタジー」といえば、「勇者」「王国」「国王」「姫」「魔法使い」「魔法」「モンスター」「伝説の剣」「魔王」などがキーワードであり、本作にも登場するが、これらは「ファイナルファンタジー」「ドラゴンクエスト」のような、よくある「剣と魔法のファンタジー」だとプレイヤーに思わせておき、中盤以降のどんでん返しに繋がるメタ演出でもある。
1991年7月19日発売、スクウェアの看板タイトル「ファイナルファンタジー」シリーズ4作目であり、SFC版ディレクター時田貴司氏がゲームデザインやシナリオを手掛けたタイトル。
主人公のセシル、ヒロインのローザ、セシルの親友カインは複雑な関係にあり、セシルとローザは恋仲にありながら互いの立場上一歩踏み出すことができない状態であり、カインはローザに片思いしているが同時にセシルを高く評価しているが故に争いあうことができない。だがカインが内に秘めていた感情を敵に利用され、セシルとカインは敵対することになってしまう。
最終的にセシルとローザは結ばれ、カインは身を引く(内に秘めていた嫉妬心や諸々は続編まで引きずることとなるが、カインは嫉妬心を利用されただけで基本的に真面目な人物)。
本作のオルステッド・ストレイボウ・アリシアは、「ファイナルファンタジーIV」でのセシル・カイン・ローザに対応している。
そして本作ではセシルとカインの立場が逆転した結果、中世編ラストであの展開となってしまう。
また、SFC版攻略本でも触れているが、序盤、ストレイボウがパーティに加わる際、城を出てすぐの場所でストレイボウが声をかけてきて加わるという展開は、「ファイナルファンタジーIV」でセシルが出発する際にカインが城門近くで待っていて加わるというシーンが元ネタである。
魔王降臨 Live SIDE&Evil SIDE - 過去の作品 - R:MIX(アールミックス)
2006年には、時田貴司氏を加えて、劇団「R:MIX(アール ミックス)」により中世編を原作とした演劇「魔王降臨 Live SIDE&Evil SIDE」が演じられた(内容は本作の中世編を元としたパラレルワールドになる)。
この時の演劇で、ストレイボウを元にした「シーザ=ストレイボウ」を演じたのが程嶋しづマ氏である。
2007年発売のニンテンドーDSリメイク「ファイナルファンタジーIV」では、程嶋氏はセシルの声を担当(以降、「ディシディア ファイナルファンタジー」シリーズなどのスピンオフ作品などでもセシルの声を担当している)。
そしてリメイク版「ライブアライブ」で、ストレイボウの声を担当している。
つまり「カイン的な人物であるストレイボウ」と「セシル」の声が同一人物によるもので、二度に渡り「立場が逆転」したことになる。
程嶋氏がセシルのボイスを担当しているDS版のリメイクは現在、「ファイナルファンタジーIV (3D REMAKE)」のタイトルで、スマホ版やSteam版をプレイ可能。
なお、DS版FF4には、程嶋氏以外にも本作に出演している声優が多数出演されている。ローザの声を担当した甲斐田裕子氏は兼役で悪役のバルバリシアも担当したが、本作ではローザと同じく三角関係の渦中にあるレイチェルと、バルバリシア同様に妖艶な悪役である淀君を担当している。
他にはシステム面において、レベルアップ時のステータス成長が老齢キャラほど鈍いという特徴も「ファイナルファンタジーIV」との共通点である。
「ファイナルファンタジーIV」では、テラやフースーヤといった老齢のキャラのステータス成長が鈍いどころか、テラに至ってはレベルアップで下がるステータスまである。
本作では中世編のウラヌスとハッシュが該当する(ハッシュは老齢というほどではないが、後にわかる通りに病を患っていた)。
経験値すら増えない(よってステータスが一切上昇しない)心山拳老師も、ある意味該当しているのかもしれない。
「ファイナルファンタジーIV」からのネタは中世編以外でも小ネタとして登場しているが、それらについては各シナリオの解説を参照のこと。
1990年2月11日発売のエニックスのRPG、ドラゴンクエストシリーズの4作目。ハードはファミコンだが、プレイステーションやニンテンドーDS向けのリメイクがあり、更にDSリメイクをスマホへ移植したスマホ版もある。
現在では合併してスクウェア・エニックスとなっているが、SFC版発売時期はスクウェアとエニックスは別のメーカーであり、それぞれがRPGの大作「ファイナルファンタジー」と「ドラゴンクエスト」を擁するライバルであった(少なくとも当時の一般的なゲーム好きはそういう風に二社を見ていた)。
リメイク版発売前のインタビューで、時田貴司氏は中世編について、上記の「ファイナルファンタジーIV」が裏のテーマであることに加えて、「ドラゴンクエストIV」についても触れている。
『ライブアライブ』リメイクの新要素や変更点を時田貴司氏に訊く。何度も続編やリメイクにトライし断念、浅野チームに合流してついに実現 | ファミ通.com
中世編までのシナリオが、RPGの勇者(主人公)=約束された英雄、という王道パターンを描いてきたところでアンチテーゼとして登場する中世編であるが、「ドラゴンクエストIV」における敵・デスピサロからの影響もあったことが語られている。
魔族の王ピサロは、魔族として人類抹殺のため行動し、その邪魔となる勇者を発見すると自ら勇者の故郷に間諜として入り込み、部下を率いて攻め込むと勇者のみならず勇者の故郷まで滅ぼすなど、主人公や人間側からすれば明確な悪役である。なお、故郷襲撃時に魔族に殺害されたのは勇者本人ではなく、魔法で勇者そっくりに姿を変えた、勇者の幼馴染シンシアである。
(時田氏はXで「ドラクエ4の5章の始まりにはゲームならではの演出に衝撃を受けました」とコメントしており、これは勇者の故郷関係のエピソードのことである)
一方でピサロの恋人であるエルフのロザリーは、「ルビーの涙をこぼすから」という理由で欲深い人間から狙われた挙げ句殺害されてしまい、ピサロは憎しみの末に自ら「進化の秘宝」という術で「デスピサロ」という化け物と化してしまう。
実は、人間を利用してロザリーを殺害し、ピサロを追い詰め彼に「進化の秘宝」を使わせるよう仕向けたのは、ピサロと同じ魔族であったのだが(ファミコン版ではピサロへの忠誠心で行っているが、リメイク版以降はピサロを利用・自滅させるための裏切り行為である)、このあたりはオルステッドとストレイボウの関係も連想させる。
ピサロとロザリーの関係、そして本作のオルステッドとアリシアの関係の対比も注目点であろう。
絶対的な悪と割り切れない悪役は、当時のゲームではまだ珍しい存在であり、ドラゴンクエストシリーズにおいても4作目で初めて、悪役側のストーリー、キャラクターがしっかり描かれている作品でもあった。
悪役こそが最も人間らしい感情を持ち、人間らしい行動で人間に相対することになる、という点において、デスピサロとオルステッドの共通点が見えてくる。
このドラゴンクエストシリーズ4作目も該当するが、当時のファイナルファンタジーシリーズとの大きな違いのひとつとして、「ドラゴンクエストシリーズでは主人公が喋らない」ことがあげられる。
RPGにおいて主人公が喋らないパターンの場合、RPGの「RP」部分、つまり「ロールプレイ」、プレイヤーが主人公の役割を演じられるよう、没個性かつ喋らないように設定されていることがほとんどである。ただし喋る主人公であっても、プレイヤーの没入感やロールプレイを阻害しないよう「濃いめの個性」は設定されないことが多い(もちろん、それを破っている作品もある)。
ファイナルファンタジーシリーズでも主人公が没個性・ほぼ喋らない作品もあったが(1作目と3作目にその傾向がある)、ほとんどの場合で主人公にもきちんと個性があり、物語にも絡んでくる。最初にあげたファイナルファンタジーIVの主人公セシルも喋るタイプの主人公である。
本作は中世編までのシナリオでは主人公に個性があり喋るというファイナルファンタジータイプのキャラである(キューブやポゴのように設定上言語を発しない場合もある)。上の通り、プレイヤーの没入感やロールプレイを阻害しないように配慮された主人公が多いものの、ドラゴンクエストシリーズのような没個性系主人公でないことは明らかである。
一方で、中世編のオルステッドはドラゴンクエストタイプの「没個性で喋らない」主人公である……と見せかけた逆転が起きる。
喋らない主人公と見せかけた演出は、ドラゴンクエストシリーズをはじめ、それまでの名作RPGがあってこそ映えるのである。
また、日本のRPGにおける「勇者 VS 魔王」の構図を築いたのもドラゴンクエストシリーズであろう。
ドラゴンクエストシリーズで「魔王」が初登場するのは実は3作目であり、4作目も「勇者」は登場するものの「魔王」はいないが、ピサロが「魔族の王」なのでほぼ「魔王」ではある。
中世編サブタイトル「魔王」から、「勇者が魔王を倒す物語」を連想するのはドラクエの「勇者 VS 魔王」があってこそだろう。
実際には「魔王が生まれるまでの物語」であるのは、中世編をプレイすればわかる通りであり、これもまたそれまでのRPGに対するアンチテーゼである。
ただし、本作はRPGのお約束をひっくり返しはするが、お約束を否定するものではない、という点には注意が必要である。
これまでのシナリオには数多くの元ネタがあり、優れた元ネタがあってこそのオマージュであり、ひっくり返した時の衝撃に繋がるからである。
また、お約束や元ネタに対するリスペクトも重要であることは言うまでもない。
先に、SFC版発売時は「絶対的な悪と割り切れない悪役が登場するゲームは珍しかった」と記したが、ファミコン・スーパーファミコンが登場した1980~1990年代、家庭用ゲームは黎明期であり、「子ども向けおもちゃ」の傾向が強かったという点も考慮していただきたい。
漫画やアニメではドラゴンクエストシリーズ以前から悪役側の事情をしっかり描写する作品が多数あったが、正義側である主人公をプレイヤーが操作するテレビゲームにおいて、倒すべき悪役にも悪役なりの事情があることを描き、プレイヤーが悪役を倒すことを躊躇するような展開に対しては、否定的な雰囲気もあったようである。
対象年齢層が高めのパソコンゲームは別だが、ファミコン・スーパーファミコンのように小中学生を主な対象とする家庭用ゲーム機では、マーケティングの面でもわかりやすい勧善懲悪が好まれた時代だったのであろう。
実際に、パソコンからファミコン・スーパーファミコンへ移植されたゲームの中には単純な勧善懲悪ではなかったり、ビターエンドな作品も存在している。PC-88系統のパソコンゲームからファミコンに移植された作品では、「銀河の三人」(PC版タイトルは「地球戦士ライーザ」)、「夢幻戦士ヴァリス」などがある。
同じ理由で、プレイヤーにとって後味が悪くなるような、ハッピーエンド以外のエンディングもゲームではほとんど描かれていなかった。それを破ったのはスクウェアだと「聖剣伝説」シリーズであり、1作目では、世界は救われても主人公個人にとっては……という、いわゆるビターエンドが描かれた。
「ドラゴンクエストIV」も、主人公はエンディングで壊滅した故郷に帰還することとなり、そこでの演出をハッピーエンドと捉えるか、ビターエンドと捉えるかは、プレイヤーによって分かれる。
本作は、「子ども向け」とされてきた家庭用ゲームが、現在のようなサブカルチャーへと変化していく過渡期の作品のひとつだったのだろう。
コンピュータゲーム以前に生まれ成長してきた漫画やアニメもまた、「子ども向けの勧善懲悪作品」だけでは飽き足らず様々な作風が生まれたという流れがあり、ゲームも同じように、様々な作風の作品が受け入れられ現在に至っている。
子ども向け作品に入れるべきではない要素(子どもに悪影響を与えるであろう倫理上の問題があるなど)がある場合は無論例外として、どんな作品でもどの層向けでも、丁寧に作れば作品に込めた思いは伝わる、という考え方が浸透したのだろう。
(一方で、ゲームに対しどのようなプレイ体験を求めるかは人によりけりであるから、それら作風は人を選ぶ要素となり、プレイ前にある程度下調べが必要というケースもなくはない)
意図したものかどうかはわからないが、ピサロ関連以外にも、本作と「ドラゴンクエストIV」には共通点がいくつかある。
なお、幕末編に登場する「悪のそろばん」(本作より先に「Sa・Ga2秘宝伝説」で登場)は、「ドラゴンクエストIV」に登場する武器「正義のそろばん」をもじっているのでは、という噂もあるが実際のところは不明。
「Sa・Ga2秘宝伝説」の発売は1990年12月と、ドラクエ4の発売より後であり、先に記したとおり、当時、スクウェアとエニックスは張り合っているのではないかと推測するユーザーも多く、このような噂話が流れたのだろう。噂でしかないので注意。
中世編のパーティメンバーは最大4人だが、「勇者」「剣士(戦士)」「僧侶」「魔法使い」という、日本のRPGにおける王道・お約束の組み合わせであるという点にも注目。
また、この組み合わせの元ネタは「ファイナルファンタジーI」や「ドラゴンクエストIII」あたりであろう。「勇者」がドラゴンクエストシリーズのお約束であることと、ウラヌスが僧侶であることから、「ドラゴンクエストIII」の要素が高めと思われる。「ドラゴンクエストIII」ファミコン版公式ガイドブックでも、バランスの良さからおすすめの職業の組み合わせとされていた。
オルステッドについては、「ORSTED」だと日本語キーボードのひらがなで対応する文字が「らすとかいし」、という小ネタがあるのでは、と噂されていたのだが、SFC版ディレクター時田貴司氏によるとただの偶然であり意図したものではないとのことである。
詳細は時田貴司氏のポスト(2010年5月19日)参照。
リメイク版の英語版ではオルステッドの綴りが「Oersted」と設定されている。
デンマーク人の姓「Ørsted」の英語表記が「Oersted」で、一般的な人名である。
ただし「Oersted」はリメイク版にあたり英語版向けに設定された綴りであり(SFC版は日本語版しか発売されていない)、SFC版の時点でどのような意図で「オルステッド」という名前が決められたのかは不明である。
なお、1820年に電流の磁気作用を発見したデンマークの物理学者ハンス・クリスティアン・エルステッド(Hans Christian Ørsted)にちなみ、磁場の強さ(磁界強度)の単位が「エルステッド(記号:Oe)」と決められているため、「Oersted」で検索すると大抵の場合、こちらが検索結果の上位に並ぶ。
時田貴司氏のXでの回答(2020年3月28日)では、
「ストレイツォの語感が強烈だったのと、弓の名称であるストレイボウから命名」
とある。
ストレイツォは荒木飛呂彦氏による漫画「ジョジョの奇妙な冒険」の「Part1 ファントムブラッド」及び「Part2 戦闘潮流」の登場人物。
ストレイツォの見た目や、「Part2 戦闘潮流」における顛末も、ストレイボウと共通する部分が見受けられる。
なお、「ジョジョの奇妙な冒険」のストレイツォの名前は、イギリスのロック・バンド「Dire Straits」から取られている。
ストレイボウの技「パープルストレイ」にも「ストレイ」が含まれているが、「stray」は「迷い込む」「さまよう」「踏み外す」といった意味。
「ウラヌス」はギリシア神話に登場する天空神ウーラノスが元ネタ。ラテン語形が「Uranus(ウラヌス)」。
太陽系の惑星「天王星」の学術名称「Uranus」も天空神ウーラノスから取られている。
SF編キャプテンスクウェア内のステージ「URANUS」の名称は「天王星」からであるが、その「天王星」の由来は天空神ウーラノス、ということなので、中世編のウラヌスとキャプテンスクウェア内の「URANUS」には「元ネタが同じ」以外の繋がりはない、と思われる。
また、ウラヌスのイメージについて時田貴司氏が以下のようにコメントしている。
ウラヌスのイメージは薔薇の名前のショーン・コネリー。この質素さと厳格な佇まい!#ライブアライブ https://t.co/wObN704VBC
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) January 25, 2023
ハッシュは英単語「hash」または「hush」が由来なのかどうかは謎。
「hash」なら「切り刻む」などの意味がある。「hush」なら、「黙らせる」「なだめる」の意味。
リメイク版の英語版での綴りは「Hasshe」。
英語などの外国語由来でないとしたら、「勇者」をローマ字表記した「yusha」のアナグラム(文字並び替え)で「hasyu」→「ハッシュ」、という可能性も一応考えられなくもない。
また、スクウェアのゲームでは、本作と同時期に開発されていた「クロノ・トリガー」に時の賢者ハッシュというキャラクターがいる。中盤あたりまで正体を隠しつつも主人公たちを導くキャラで、本作のハッシュやウラヌスと似たようなポジションといえるかもしれない。
(「クロノ・トリガー」の英語版では、時の賢者ハッシュを含む三賢者の名前がMelchior・Belthasar・Gasparと、新約聖書の東方の三博士から取られており、日本語版とはまったく別物なので、本作の「ハッシュ」の由来はやはり謎のまま)
アリシアは英語圏の人名としてはありふれてはいるのだが、リメイク版収録の英語版だと、「Alethea」という綴りである。
この綴りだと、ギリシャ語で「真実」を意味するアルテイア(αληθεια, aletheia)に由来するとのことである。
本作において、この意味を込めての「アリシア」という命名なのかどうかは不明だが、中世編における彼女の行為、役割を考えると、なかなか意味深である。
中世編のモデルは特にないですね。王道なキャラ配分からストレートに設定しました。ルクレチアは中世の人名、地名辞典で印象的だったので引用したと記憶しています。 https://t.co/tE5kqWoHlZ
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) March 28, 2020
国名の「ルクレチア」は、時田貴司氏のXでの回答によると、上の通り、「ルクレチアは中世の人名、地名辞典で印象的だったので引用したと記憶しています。」とのことで、特定のモデルがある訳ではないらしい。
ルクレチアは一般的なヨーロッパ系の女性名。綴りは言語により変化し、「Lucrezia(ルクレツィア)」、「Lucretia(ルクレティア / ルクリーシア)」、「Lucrecia(ルクレシア)」、「Lucrece(ルークリース)」などがあるが、リメイク版収録の英語版では「the Kingdom of Lucrece」、つまりLucrece(ルークリース)を採用している。
ファミリオの村は、英語の「家族」を意味する「family」が由来か。
「family」由来なら、村の右側の民家、親子3人の「家族」を指しているのだろう。
リメイク版収録の英語版では「Fugalia Village」と、日本語版とは異なる名称になっている。
「Fugalia」は、古代ローマで行われてきた宗教祭レギフギウム(Regifugium)の別名。
剣術の構えの中で「霞の構え」と呼ばれる構えは、オルステッドやハッシュの戦闘時の構えとよく似ている。
新陰流という剣術の流派の系統で実際に見ることができる。
わかりやすいのは、新陰流兵法公式サイト内の、
新陰流兵法 ―新陰流とは―
このページの一番下の写真だろう。
「霞の構え」の検索時にサジェストで出てくるが、「ファイナルファンタジーVII」のセフィロスの構えとも似ている。
発売は本作の方が先だが、知名度ではセフィロスの方が上であるのは致し方ない。
中世編での描写や会話を見る限り、オルステッドとハッシュは作中で初めて会ったようであるから、ルクレチア王国伝統の剣術をふたりとも使いこなしているのか、あるいはハッシュの剣術や構えがルクレチア王国に伝わり、オルステッドも本編開始前に習得した、ということなのだろう。
中世編の味方キャラの技・スキル名はほとんどが英語由来(ウラヌスは日本語も含まれる)でわかりやすいので、以下では特筆すべき点のみまとめておく。
技名及び、リメイク版の「高く飛び上がり上空から敵を突き刺す」という説明や戦闘中のモーションから、ファイナルファンタジーシリーズのアビリティ・コマンド「ジャンプ」が元ネタか。
ファイナルファンタジーシリーズでの「ジャンプ」は3作目が初出で、先に紹介した4作目では、竜騎士であるカインの専用コマンドである。
ポゴの「ブンブン」もまた、「ジャンプ」が元ネタかもしれない。ポゴの場合は槍も装備できるため、ファイナルファンタジーにおける「竜騎士といえば槍でジャンプ」を再現できる。
本作の「ジャンプショット」は、勇者であるハッシュ、そして彼から剣を引き継ぐ主人公オルステッドの技であるが、元ネタではストレイボウポジションのカインが使っていた技という、なかなか意味深な設定である。
オルステッドの「ヘキサフランジ」も英語由来と思われるが、文字通り「hexa flange」だとすると「六角形の輪状の金具(平円板)」のことになる。「hex flange」で検索するとボルトやねじが多数結果に出てくるだろう。
「hexa」はギリシャ語語源の「6」を意味する接頭辞で、実際に「ヘキサフランジ」は6ヒットする。
「インケイジ」については、時田貴司氏がXで回答している。
③バトルのスタッフが考えた技名ですが捕らえる技なので籠の鳥のような意でしょうね。オルステッドの命運を意図してたかは定かではありませんが。 https://t.co/ptpnBedw07
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) March 28, 2020
オルステッド(ハッシュも使用可能)の技「Vシャイン」は、剣筋が文字通り「V」の文字のように描かれる演出があり、1977年~78年放送のロボットアニメ「超電磁マシーン ボルテスV」の必殺技「天空剣・Vの字斬り」を連想させる。
ストレイボウの技「ブルーゲイル」だが、1982年~83年放送のロボットアニメ「戦闘メカ ザブングル」のオープニング曲「疾風ザブングル」の歌詞で何度も「ブルーゲイル」という単語が登場する。
実験動画『BLUE GALE XABUNGLE SIDE L』 - YouTube
2025年に公開された、当時の映像によるストーリーの振り返りを挟みつつオープニング映像を中心に現在の技術を用いて新規に制作された実験動画『BLUE GALE XABUNGLE SIDE L』に「BLUE GALE(ブルーゲイル)」の名を冠していることからも、ザブングルにおける「ブルーゲイル」という言葉の重要性がわかっていただけるだろう。
そしてウラヌスの技「ゴッドボイス」は、近未来編解説でも紹介した1975年~76年放送のロボットアニメ「勇者ライディーン」の主役メカ・ライディーンの封印されていた武器「ゴッドボイス」からと思われる。
これ以外にも「神(ゴッド)」の名前の付いた技として「神の祝福」「神の御加護」があるのに、「ゴッドボイス」だけが英語の名称であることから、意図して付けられた名称と思われる。
どの技も英語が元になっているため、ひとつだけの一致なら単に偶然それっぽいネタなだけでは? と思うところではあるが、「Vシャイン」がオルステッドもハッシュも使えることを踏まえると、中世編の味方キャラ全員の技に往年の名作ロボットアニメからのネタが含まれていることになり、偶然ではないだろう。これまでも紹介してきた通り、本作には名作ロボットアニメからのネタが非常に多いためである。
「勇者ライディーン」以外のアニメの第1話は以下で見られる。ボルテスVの「天空剣・Vの字斬り」も、ザブングルの「疾風ザブングル」も含まれる。
中世編の防具類はわかりやすい由来があるものが多いのだが、剣については「ディフェンダー」以外、他のゲームでは見かけない、由来もわかりにくいものが多い。
normic - Wiktionary, the free dictionary(英語)
normicで規範的、標準的の意味。
英語版だと「Gnomic Sword」。「gnomic」は「金言的な、難解な」の意味。
axisで「軸」「中心線」などの意味だが、「アクシアン」部分の由来なのかどうか不明。
英語版だと「Axion Sword」であり、「Axion」は素粒子物理学上の未発見の素粒子の名称だが、こちらが剣の由来というにはやや大げさに思える。
ゲームボーイのSa・Gaシリーズやファイナルファンタジーシリーズ初期作品の常連装備品で、剣でありながら装備すると回避や防御が上がる能力を持つことが多い。
本作でも武器として装備することもできるが、腕装備(左装備)で防御や物防(体)の値が上がる。
回避の話の余談になるが、リメイク版では中世編に登場する「王族の盾」「勇者の盾」で回避の値が上がるようになっている。
ファイナルファンタジーシリーズ(2作目以降)における、盾に回避の値を上げる効果があることを反映しているのかもしれない。
marvel、「驚異」などの意味に-erを付けた形容詞から。
英語版だと「Sword of Marvels」。
SFC版では左に装備していると、「●●フォビア」系モンスターなど、敵の隠しパラメータ「種族」が「魔法生命」に設定されているモンスターに対し、戦闘開始時に一定確率で行動異常が入る。効果は「マザーイメージ」と同じ、「一切攻撃してこないが接近してくる」状態にすることであり、この点が「マーベラー(驚異)」な効果ということだろうか。
本作の「伝説の剣」ポジションにあたるが、たとえばファイナルファンタジーシリーズの「エクスカリバー」(元ネタは中世の「アーサー王伝説」。エクスカリバー - Wikipedia)や、幕末編の刀のように元ネタがある名称ではないようである。
また、時田氏によると「ブライオン」は「ハッシュが以前愛用した剣」ということで、「伝説の剣」的な大げさな設定はないようである。
ハッシュが以前愛用した剣ですね。石碑はハッシュ自ら建てたものです。 https://t.co/KPTPw8c95c
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) March 28, 2020
名称は「bright(輝く)」または「brave(勇ましい/名詞なら勇者の意味もある)」と「lion(獅子)」を組み合わせた造語などであろうか。
本作でよくあるロボットアニメネタなら、1981年~82年のアニメ「百獣王ゴライオン」(百獣王ゴライオン - Wikipedia)からという可能性もあるか。
英語版だと「Brion」。ごくありふれた人名になる。
ハッシュは「ブライオン」を手にして魔王山への入口を開いたが、「魔王と戦う資格のある者にだけその扉を開く」と語っており、資格=「ブライオン」とまでは言っていない。とはいえ、ハッシュをパーティに入れただけで、「ブライオン」を所持していない場合は魔王山入口は開かないので、勇者及び「ブライオン」が魔王山入口を開く鍵である、というのが一般的な解釈となるのだろう。
最終編においては、ルクレチアは魔王オディオの支配する地となっているため、魔王山入口の仕掛けも魔王オディオの手により復活したものかもしれないのだが、わざわざ中世編と同じ手段でなければ開かないようにしたのはどうしてなのか、考察してみるのも面白いかもしれない。
フランスの文筆家コラン・ド・プランシーによって書かれた悪魔やオカルトの辞典「地獄の辞典(フランス語:Dictionnaire infernal)」(1818年初版発行、1863年発行の第6版まで存在している)に、「Chodar(コダール)」という悪魔について記載がある。
オリジナルの第6版(フランス語)はWikisourceで公開されており、以下が「Chodar」についての説明である。
フランス語は筆者にはまったくわからないため、DeepL翻訳を元とした意訳も付けておく。
Chodar, démon que les nécromanciens nomment aussi Bélial ; il a l’orient pour district, et commande aux démons des prestiges.
Dictionnaire infernal/6e éd., 1863/Chodar - Wikisource意訳:
降霊術師たちがベリアルとも呼ぶ悪魔、Chodarは、東洋(オリエント)を支配地域とし、悪魔たちに呪文を唱えるよう命じる。
様々な伝承で悪魔とされるベリアルだが、悪魔コダールは悪魔ベリアルとも呼ばれている、と「地獄の辞典」には記載されているのである。
ストレイボウの初期装備「コダールロッド」の由来だとすればなかなか意味深。
また、上のように「東洋(オリエント)を支配地域としている」とあるが、ここではヨーロッパ(古代ローマ)から見て東の方向、オリエントのことを指していると思われる。
ルクレチア城を基準とすると東の方角に魔王山があるが、悪魔コダールの設定を踏まえてのことなのかはわからない。
ただし、リメイク版収録の英語版だと、「コダールロッド」は「Rod of Khodar」であり、「Chodar」ではない。
「Khodar」は地名もしくは一般的な人名のようである。
綴りが似ている(CをKに変更しただけ)なので、「Chodar」から意図的にもじって「Khodar」にした可能性も考えられる。真相は不明。
ストレイボウについては最強技が悪属性の「ブラックアビス」(直訳だと「黒い奈落」)であり、「コダールロッド」の由来も合わせて、ストレイボウが「中世編の最中に魔王像などに影響されてああなった」というよりは「元からそういう性質を持ち合わせていた」ことが示唆されている(最終編の心のダンジョンでのセリフから、「ファイナルファンタジーIV」のカイン同様に元々あった嫉妬心を更に利用された形である可能性ももちろんある)。
もっとも、ハッシュがかつて魔王を倒した技も、オルステッドが覚える最強技も悪属性の「デストレイル」(直訳だと「死の道」)であるあたり、「ブラックアビス」も合わせて中世編の世界そのものの異様さを表しているとも考えられる。
先に中世編は「RPGのお約束」が詰め込まれていると記したが、「ブラックアビス」「デストレイル」の存在で違和感を覚えたというプレイヤーもいるかもしれない。
リメイク版における「魔女の知識を宿したローブ」という説明からして、「モルガンローブ」のモルガンはアーサー王物語に登場する魔女モーガン・ル・フェイ(モルガン・ル・フェとも)と思われる。
西洋ではハシバミの枝は占いに用いる棒(ダウジング)に適しているとされており、ウラヌスの初期装備「ハシバミの杖」の元ネタと思われる。
サーリットは15世紀頃イタリアで生まれた兜で、頭部は球状、首の後ろのあたりがはねた形状をしている。
ファンタジー系ゲームではややマイナーな存在のようで、ファイナルファンタジーシリーズでは「ライブ・ア・ライブ」の発売の後かなり経過した「XI」や「XII」などで登場している程度。「XI」での表記は「サリット」で、他作品だと「サーリット」。
Wikipediaでも英語版などの記事はあるが日本語版がないあたりからして、日本での知名度が低めであることがうかがえる。
「かわよろい/皮の鎧」「かわのブーツ/皮のブーツ」「かわのこて/皮の小手」の3種は、いわゆる剣と魔法のファンタジー系RPGでの初期装備品としておなじみ。
本作ではSFC版だとひらがな表記であり、「皮」か「革」かはっきりしなかったが、リメイク版で「皮」に統一された。
スクウェアのRPGでも、ファイナルファンタジーシリーズ等で頻出である。
この、「いかにもRPGでよく出てくるアイテム類」が登場するのも、中世編ラストのどんでん返しの演出に役立っている。
なお、「かわよろい」はファイナルファンタジーシリーズの1~3作目での表記と同一。
1~3作目は移植やリメイクの際に「かわのよろい」や「皮鎧」に変更されたりしたのだが、本作もリメイク版では「皮の鎧」と、間に「の」が入った名称が変更された。
中世編には鎧系装備として「皮の鎧」「神聖アーマー」「アイロンスーツ」「フレームアーマー」があるが、「鎧」「アーマー」「スーツ」と表記がバラバラである理由はよくわからない。
初期のファイナルファンタジーシリーズでは、「アイス~」という名称のアイス系装備・「フレイム~」という名称のフレイム系装備がよく登場していた。
本作では「アイスヘルム」と「フレームアーマー」(フレイムアーマーではない)が登場している。
ファイナルファンタジーシリーズだと、4作目までは名称と逆の属性に対する耐性があり、5・6作目は名称と同じ属性の攻撃を吸収する効果になるなど、やや混乱をまねく変更があった。
本作はどちらかといえば5作目以降の仕様と似ており、「アイスヘルム」についているのは水属性の回避属性/耐性属性、「フレームアーマー」なら火属性の回避属性/耐性属性がついている。
また、初期のファイナルファンタジーシリーズでは、アイス系装備とフレイム系装備を同時に装備させて、両方の耐性(または吸収能力)を得る、というのは攻略上のセオリーでもあった。
特に「III」「IV」だと、アイス系装備には「炎属性耐性&冷気属性弱点」、フレイム系装備には「冷気属性耐性&炎属性弱点」という性質があったため、弱点を打ち消す目的で、例えば「フレイムメイル」と「アイスシールド」を同時装備させる、ということはよく行われていた。
「IV」では本作のオルステッドやストレイボウの元ネタとなる、セシルとカインの中盤以降の装備としてもおなじみだろう。
「皮」シリーズ装備同様、「いかにもRPGでよく出てくるアイテム類」の演出としても「アイスヘルム」「フレームアーマー」が一役買っている。
「チャリオ」は「チャリオット(chariot)」のことであろう。
チャリオットは古代エジプト・ギリシャ・ローマなどで用いられた2頭立て一人乗りの二輪馬車のことで戦争にも用いられた。
リメイク版での説明が「戦車の乗り手の足を守るブーツ」なので、チャリオット=戦車ということだろう。
SFC版ではアイテム名は最大8文字の制限があるため、「チャリオットブーツ」ではなく「チャリオブーツ」としたのだろう。
ひとつ謎なのは、ルクレチアに馬車や戦車らしきものが存在していない、という点であるが……。
ゲーム内で描かれていないだけかもしれないし、単純に「西洋ファンタジー風」世界の象徴としてのネーミングという可能性もある。
ギリシア神話に登場する100の目をもつ巨人アルゴスが元ネタ。100の目を持ちそれらが交代で眠るため、アルゴスは常に目覚めていて死角がない。
本作では「アルゴスの瞳」に石化の追加効果があるが、巨人アルゴスと石化には特に関係がない。
リメイク版でのアイテムの説明「見た者を石化させる巨人の瞳」は、見た者を石化させるギリシア神話の怪物メデューサ(またはメドゥーサ)のイメージが強い。
SFC版ではアイテム名は最大8文字の制限があり、「アルゴスのひとみ」と「ひとみ」がかな表示のため、「メデューサのひとみ」では文字数オーバーとなることを回避した可能性も考えられる。
それならば「メデュサのひとみ」にするとか、メデューサを含む女神三姉妹の総称「ゴルゴン(ゴーゴン)」を使うという手もあったのではないかとも思うが……。
結局のところ、なぜアルゴスが採用されたのかは不明である。
「常に見ている」巨人アルゴスと、「見たら石化」のメデューサ、という連想からであろうか。
中世ヨーロッパで広まった魔術書(グリモワール)の中に、古代イスラエルのソロモン王を元としたソロモン伝承・偽ソロモン文書を題材とする一連の魔導書群「ソロモンの鍵」シリーズがある。
その中に、17世紀のグリモワール「レメゲトン(Lemegeton Clavicula Salomonis)」という書物があるが、この書物は「ソロモンの小さな鍵(Lesser Key of Solomon)」「ソロモン王の鎖骨」とも訳される。この「ソロモン王の鎖骨」が本作のアイテム「ソロモンの骨」の元ネタだろう。
「ソロモンの骨」のアイテムの説明に「精霊を操る魔道士を呼び覚ます」とあるが、「レメゲトン」に記されているのは、ソロモン王が72の悪魔を操っていた、という話である。
アイテム関係で元ネタがありそうなものや、特筆すべきものについて記す。
「なおりくさ(または「ぐさ」)」か「なおりそう」か、読み方はゲーム内で明らかにされないが、SFC版攻略本には「なおり草」と振り仮名が振ってある。
おそらく、推量の意味での語尾「~そう」を兼ねたダジャレなのだろう。
この「治り草」もそうだが、「脱いだ服」や「こんなモン」入手時のやりとりなど、中世編序盤はシリアスな導入と見せかけて笑えるネタがいくつかある。このあたりも「シリアス展開でも息抜きとして笑える小ネタもある」という、当時のRPGのお約束だろう。
「アリス」という名称から、本作の「アリシア」(AliciaまたはAlethea)の愛称が「アリス」(Alice)で、アリシアのビスケットという意味ではないか、との推測があった。
※先に記したとおり、リメイク版収録の英語版での「アリシア」の綴りは「Alethea」である。
SFC版ではアイテムについて、種別や効果がわかる程度の簡単な説明しかなく、SFC版攻略本でも「アリスのビスケ」とは何なのかについては触れていない。攻略本には描き下ろしでアイテムのイラストがいくつか掲載されているものの(書籍「ライブアライブ オリジナル+HD-2D イラストレーションズ」に再収録)、その中にも「アリスのビスケ」らしきイラストはない。
このためSFC版をプレイしたプレイヤーは、名称だけでアイテムについて想像を膨らませていたのである。
リメイク版ではアイテムの説明で「お茶会でいただくおいしいお菓子」とあり、どちらかといえばルイス・キャロルによる小説「不思議の国のアリス」が元ネタではないか、と思われる。
「不思議の国のアリス」には、不思議の国に迷い込んだアリスが「A Mad Tea-Party(イカれたお茶会)」に呼ばれる印象的なエピソードがある。
「アリシアのビスケット」でも、「A Mad Tea-Party(イカれたお茶会)」由来のビスケットでも、本作では魔王山に落ちていたり、最終編でもあちこちで拾えたりモンスターがドロップするという点において、「おいしいお菓子」と単純に喜べない気もするが……(ゲーム内の回復アイテムとしては優秀であることはいうまでもない)。
伝承上の生物、一角獣ユニコーンの骨(ホーン)は、解毒作用があると信じられていた。
本作で「ユニコーンホーン」に状態異常回復効果があるのはこの伝承が元ネタと思われる。
伝承上の生物なので実在せず、中世から近代にかけては海に生息するイッカクの牙がユニコーンの角として出回ったこともあるとのことである。
ファイナルファンタジーシリーズではアイテム「ユニコーンのつの」名義で、「II」や「IV」に登場する。
本作と同じく、状態異常回復アイテムである。
現実においては、宗教的な儀式に用いられる水。
ゲームでは宗教的な意味があるかないかを問わず、清めの水という意味合いで、回復アイテムだったり、時には魔物を攻撃するアイテムになるなど、多くの作品に登場する。
ファイナルファンタジーシリーズでは「ファイナルファンタジーV」から登場しており、状態異常のゾンビ状態を回復する。シリーズ毎に効果は少しずつ変わっているが、概ね、ゾンビや呪い(カーズ)といった状態異常を回復させる効果がある。
本作ではエリア回復兼、全状態異常回復とファイナルファンタジーシリーズよりも高性能。
「ソロモンの骨」で紹介したグリモワール「レメゲトン」の第1部「ゴエティア」の中に、サブカルチャーでもおなじみ、ソロモンが操っていた悪魔「ソロモン72柱」について記されている。
ソロモン72柱には、攻撃アイテムの「アモンブラッド」のアモン、「バールブラッド」のバエル(バール)も含まれている。
また、最終編に登場する敵「グラシャラボラス」の元ネタとなる「グラシャ=ラボラス」の名前もある。
上リンク先に72柱の一覧があるが、アニメ・ゲーム・漫画好きであれば、他にも見覚えのある名前が並んでいるだろう。
「ゴエティア」自体も「ファイナルファンタジーVI」に登場する敵の名前である。
名称及び使用時のスキル名「禁断の誘惑」からしても、旧約聖書の「禁断の果実」伝承が元ネタだろう。
SFC版では、「中世編でのルクレチア城・魔王山の宝箱などアイテムの取得状態が、最終編に引き継がれる」「中世編と最終編では同じ場所であってもアイテムが変化している」という仕様になっているが、これは「ファイナルファンタジーVI」における、世界崩壊前と後とで一部箇所の宝箱の中身が変化する仕様と似ている。
リメイク版ではこの仕様は廃止されているので、中世編でも宝箱をすべて回収して問題ない。
なお、「クロノ・トリガー」でも、「同じ場所にあるが時代が異なると中身が変化する宝箱」が存在している。
中世編の中盤あたりまでのモンスターについて紹介する。
終盤の「●●フォビア」系モンスターはこの後の項目を参照。
ほとんどは英語由来であり、たとえば「クールバルブ」は「Cool Bulb」、雪が積もっている勇者の山に出現し、使用スキルが「凍てつく触手」であることが「Cool」部分の意味であろうし、見た目から「Bulb」(球根)なのだろう。
同じ見た目の「バーンバルブ」は「Burn Bulb」、「Burn」は「燃える」の意味であり、使用スキルは「燃える触手」「爆発」である。
(このバルブ系の敵が、最終編では「ホラーバルブ」という、最終編の世界観を反映したかのような名前で出現する点も注目である)
それ以外、英語由来ではなさそうなモンスターや、特筆すべきモンスターについてまとめる。
どちらも花の咲いた植物のような見た目だが、由来ははっきりしない。
リメイク版収録の英語版だと「Freezine」「Mundine」。
フリーザインについては、「クールバルブ」同様の性質があることや、英語版の綴りから、「freeze」(凍らせる)が由来だろう。
マンダインは、ファイナルファンタジーシリーズのモンスターとしてもおなじみ、引き抜くと悲鳴を上げるという伝承がある植物「マンドレイク」(マンドレイク - Wikipedia)からか。ラテン語だと「マンドラゴラ」である。
ただし、「~ine」が付く名称になった理由はよくわからない。
由来が「ドラゴン(dragon)」からなのは間違いないだろうが、「ドラグノン」という言葉はないようなので詳細は不明。
リメイク版収録の英語版だと「Dragunon」。
英語そのままだとしたら「Lesser Dragon」だが、「Lesser」の意味は「小さい方の」の意味。
何と比較して「小さいドラゴン」なのかはわからない。
いわゆる「西洋風ファンタジー世界での巨大なドラゴン」と比較すると小さめ、というメタなネタかもしれないが、実際は不明。
(ちなみに「レッサーパンダ」は「ジャイアントパンダ」と比較して小さいので「レッサーパンダ」である)
「ベア」は「Bear(熊)」なのは間違いないだろう。
「ナギー」部分だが、リメイク版収録の英語版だと「Nuggiebear」である。
「nuggie」はアメリカ英語のスラングで「拳で軽く小突くこと」の意味。強い雑魚敵として登場するナギーベアだが、ナギーベアにとっては「拳で軽く小突く」程度でオルステッドたちと戦っているという意味だろうか。
終盤、末尾に「~フォビア」とつく名前の敵が増えるが、これは「~恐怖症」のこと。
ただし本作の造語も含まれている。
またそれぞれの敵の外見にも反映されているが、「クモ恐怖症のアラクノフォビアの外見は蜘蛛で、蜘蛛っぽいスキルも使ってくる」などの点は興味深いところ。
※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください。
Anubinophobia
本作の造語。アヌビノがAnubis(オオカミの頭部を持つ神)由来と思われることや、アヌビノフォビアの頭部が犬っぽいことから「犬恐怖症」といった意味と考えられるが、実際の犬恐怖症は「Cynophobia(サイナフォビア)」。
リメイク版収録の英語版では「Cynophobia」。
Arachnophobia
クモ恐怖症のこと。
Entomophobia
昆虫恐怖症のこと。
Dragnophobia
本作の造語、おそらくドラゴン恐怖症の意味合い。
リメイク版収録の英語版では「Dracophobia」で、「draco」がラテン語でドラゴンの意味なのでやはり「ドラゴン恐怖症」ということになる。
SFC版では敵の名前の文字数が8文字までと制限があったため最後が「PH」になっているが、クラウストロフォビア(Claustrophobia、閉所恐怖症)のこと。
リメイク版収録の英語版では「Claustrophobia」。
Scotophobia
暗所恐怖症のこと。
Acrophobia
高所恐怖症のこと。
Feminophobia
本作の造語。「女性の」を意味するfeminineが由来で「女性恐怖症」の意味と思われるが、実際の女性恐怖症は「Gynophobia(ガイノフォビア)」。
リメイク版収録の英語版ではフェミノフォビアの名前は「Gynophobia」となっている。
この「~恐怖症」の敵たちはゲーム内での描写から、ストレイボウの意思が関わっているであろうこと、そして最後に登場するのが「女性恐怖症」であるフェミノフォビアであることは、ストレイボウの心境を考察する上で重要であろう。
また、最終編では上の敵の中でボス敵として登場する「クラウストロPH」「スコトフォビア」「アクロフォビア」「フェミノフォビア」の色変えモンスターが出現することも合わせて興味深いところ。
中世編のテーマ曲のひとつだが、「叙曲」という言葉は造語。
「序曲」(主要部への導入曲)だとすれば素直に「(勇者が)魔王(討伐)への序曲」という解釈ができるのだが、「叙」には「順序立てて述べる」の意味があることからすると、「叙曲」だと「魔王に至るまでの過程」を暗に示していると見ることもできる。
また、魔王山のBGMのタイトルは「魔王山を往く」だが、主人公たちが「魔王山へ往く」とも、「魔王 山を往く」として主語を魔王とも取れるという、複数の意味に解釈可能であることは興味深い。
なお、「往く」は「往復」という言葉の通り、「目的地への往路を行く」場合に使う。
各シナリオのラストバトル等で流れる曲のタイトル「MEGALOMANIA」だが、英語の「megalomania」は「誇大妄想」の意味。
リメイク版追加曲の「GIGALOMANIA」の方は造語。
MEGA(単位名の上に付けて100万倍の意味)の上でGIGA(単位名の上に付けて10億倍の意味)ということなのだろう。
なお、中世編の戦闘用BGM「凛然なる戦い」には「MEGALOMANIA」のメロディが含まれている。
(「凛然なる戦い」は、SFC版サウンドテストのみ「凛然たる戦い」表記)
永井豪氏原作のメディアミックス作品で、SFC版ディレクターの時田貴司氏は漫画版「デビルマン」(1972年~1973年連載)から影響を受けていることを公言している。下リンク先を参照。
Gpara.com クリエイターズ・ファイル:『半熟英雄』『ファイナルファンタジーI・II アドバンス』などの時田貴司氏(インターネットアーカイブ)
漫画版「デビルマン」は、色々な事情でデビルマンとなった主人公・不動明が人類の脅威デーモンと戦うヒーロー物っぽい前半と、中盤で突然、明が読者へ語りかけてきてからの悲劇的な展開の対比が強烈な作品である。
中盤以降は、人類をデーモンから守るため戦ってきた不動明=デビルマンが、親友に裏切られ、人類もデーモンも敵に回すこととなり追い詰められ、絶望しながらも最後まで戦いぬき、最終的にとんでもない形で決着がつく。
(といっても、親友こと飛鳥了の正体に色々と秘密があり、彼は記憶を取り戻したことで本来の立場に戻ったというだけなのだが、主人公サイドからすれば裏切られたも同然である)
全体的なストーリーの流れは中世編を彷彿とさせる。
また前半でも人間の心の弱さや愚かさは幾度となく描かれ、後半ではそのせいで疑心暗鬼となった人類が暴走していくのだが、これも中世編でのルクレチア王国の人々の描写と重なる。
最終盤ですべてを失ったデビルマンのセリフ、
「おれはもう なにもない…… 生きる希望も幸福も……生きる意味さえも! まもるべきなにものもない!」
は、中世編ラストのオルステッドのセリフに反映されている。
また、飛鳥了は中盤で、
「動物はハラがいっぱいになったらそれ以上ほしがらない……人間はちがう」
と語り、それは人間が潜在的にデーモンへの恐怖を覚えているからではないか、という仮説を述べるが、これは最終編でオルステッドを主人公に選んだ時の冒頭のセリフに反映されている。
ちなみにテレビアニメ版(1972年~1973年放映)は漫画版と設定の一部が同じという程度で、ストーリーはかなり別物で、1話完結のヒーロー物のような形になっている(こちらも名作である)。
初代テレビアニメ版の後の映像化作品の中には、漫画版に準じた展開になる作品もある。
【公式】デビルマン 第1話「悪魔族復活」 <1970年代アニメ> - YouTube
主人公の名前が「明」、デビルマンは超能力を使う、中盤で読者へ語りかける、といったあたりは近未来編も彷彿とさせる。
ただし近未来編の元ネタのひとつである「マジンガーZ」も永井豪氏原作のため、メタ表現といった演出面で漫画版の「デビルマン」「マジンガーZ」に似通ったところがある、という方が正しいだろう。
「odiō」でラテン語の「憎しみ」の意味。
(ラテン語の名詞は7つもの『格』があり、日本語でいえば名詞の後の助詞「てにをは」等により名詞の語尾などが変化する仕組みがあるようなイメージである。単数の「憎しみ」の場合基本となる主格は「odium」で、与格・奪格だと「odiō」となる。といった細かいことは、適当に調べていただきたい)
魔王オディオのネーミングの元ネタであることが、SFC版ディレクター時田貴司氏から明かされている。
各シナリオのラストボスの名前も「オディオ」をもじっている。
「おでお」。大隠呼像/隠呼大仏に降りたモノ(及び、液体人間とされた人々の憎しみ)。
「OD」はそのまま、後ろの「10」はそれぞれを「I」「O」。
「おでいお」の部分。
ワンは中国語の「王」の読みとすれば「オディおう」。
「オディ・オ」の部分。
長音符「ー」を取れば「おでぃお」。
(また、SFC版の取扱説明書では原始編ラストボスは「オディオザウルス」とされており、「オディオ」がそのまま入った名称となっている。開発中の仮名称と思われる)
「O」を「オ」として「オディオ」。
リメイク版には日本語以外に英語 / フランス語 / ドイツ語 / イタリア語 / スペイン語 / 韓国語 / 中国語簡体字 / 中国語繁体字のローカライズを収録しているが、そちらでもきちんと「オディオ」が反映されたローカライズがなされている……らしい(筆者は日本語以外に詳しくないので、気になる方は色々調べていただきたい)。
例えば中国語だとオディワン・リーは「李傲帝」とローカライズされているのだが、中国語の発音記号・拼音だと「lǐàodì」、カタカナ表記だとだいたい「リー・アオディ」という発音になるので、「オディオ」要素を含んでいる。
中世編は本作でターニングポイントとなるシナリオでもあり、謎が残る箇所もあることから、インターネットでは様々な考察や噂話がある。
先に記した『オルステッドの名前の綴りが「ORSTED」だと日本語キーボードのひらがなで対応する文字が「らすとかいし」』の件もそのひとつである。
以下でもいくつか紹介しておくが、あくまでも噂話の紹介及び考察なので、興味がなければ読み飛ばしていただいて構わない。
中盤で魔王山から帰還しルクレチア城へ戻った後の夜、玉座に居る偽魔王を撃破すると、6人の兵士たちと大臣がやってきてオルステッドを魔王と疑う(厳密には、兵士の「勇者ハッシュもストレイボウも‥‥みな オルステッドが!」の後に、大臣が「ま‥‥ 魔王ッ!」という流れである)。
だがこのイベント前にルクレチア城の中を探索してみると、城内に居る兵士は5人である(夜の間は偽魔王を倒すまで城の外へは出られない)。
このことから、偽魔王撃破後にやってきた兵士のうちひとりはストレイボウが変装した姿であり、オルステッドを魔王と疑わせるよう誘導したのではないか、という考察がある。
なお、SFC版もリメイク版も、この場面の兵士は同じ人数で変更されてはいない。
このことについて、時田氏は以下のように回答しており、少なくとも時田氏はSFC版開発中、そういうつもりであのイベントを設定したのではなかったようである。他の開発スタッフが意図して設定した可能性は残っているが、実際は不明。
それは気づきませんでした!なるほど。そういう解釈もできますね。 https://t.co/DGK69eGihV
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) March 28, 2020
リメイク版では、この場面にて兵士にもボイスがついている。
ただし兵士のボイスの担当が誰なのか、スタッフロールなどでは明記されていない。
ストレイボウ役の程嶋しづマ氏が兵士の中のひとりを担当したかどうかも明らかにはされていない。
Xには、「ストレイボウ役の程嶋しづマ氏に実際に尋ねてみたら返事をいただけたが、大量のセリフがあったので演じたかどうか忘れてしまった、という内容だった」(意訳)という、本作ファンの方の投稿が実際にある。ただしこちらは一般の方の投稿であるため、具体的にどれのことなのかといった詳細な紹介は避ける。
ストレイボウやオルステッドは憎しみから暴走ともいえる行動を取るが、魔王山及び山頂の魔王像の影響があったのではないか(または魔王像に操られたのではないか)、という説もインターネットでは見られる。
ストレイボウについては、元々オルステッドに嫉妬していた描写があるものの、だとしても度を越えていたことは誰の目にも明らかである。また、彼が本格的に暴走するのは、魔王山で偽魔王を撃破した後、つまり魔王像に近い場所であることも注目点である。
最終編では心のダンジョンにて、オルステッドが魔王と化したのは自分のせいと悔悟していることから、ストレイボウ本人も行き過ぎた行動だったと考えていることがわかり、「魔王像に操られていたのでは」という説の根拠になっているようだ。
これについては、『ライブアライブ』30周年記念 公式生放送 - YouTubeにおける、Xで募集したファンの質問に回答するコーナー(1:37:50~)の中で時田氏が触れている。
4問目(1:43:00~)の回答で、SFC開発当時は魔王山について深く考えておらず、リメイク版では「魔王山では魔に取り込まれてしまう」ような場所というように考えた、と発言している。
「魔王山は憎しみが集積していく場で、人間の負の念が強調されてしまう」
「魔王はいないけれど、あそこでは誰もが魔王になりえてしまう」
という話もあり、特異な場所ではあるものの、魔王像に操られたのではなく、人間なら誰しも魔王になる可能性がある(いわゆる「魔が差す」)、という解釈で良いようだ。最終編ベストエンドにおける魔王オディオの最期の言葉にもつながる解釈である。
アリシアの極端な言動・行動にも、魔王山が影響しているのではないだろうか。
もちろん、先にアリシアを発見したストレイボウから、オルステッドに関して何かしら良からぬことを吹き込まれていたことも彼女のセリフから推測できるが、それでもストレイボウ同様に度を越えている。
アリシアについては、中世編冒頭に大臣が「アリシアの母は、アリシアを身ごもっている最中に魔王にさらわれた」と発言しているため、アリシアは生まれる前に魔王山や魔王像に接近していた(=生まれる前から魔王山や魔王像の影響を受けていたかもしれない)という点にも注目すべきだろう。
「剣と魔法のファンタジー」のアンチテーゼとして見た場合、アリシアは「か弱く守られる存在である姫」というファンタジーの理想像をひっくり返した存在でもある。中世編冒頭のアリシアはある意味人間らしさが薄く、「姫」という役を演じているかのような振る舞いや喋り方であるが、ラストでは人間らしさや感情があらわになっている。リメイク版にはボイスが付いたため、このあたりはより強調されている。
アリシアはストレイボウのように、魔王になりかけたのではないが、普段なら理性で抑えている本音や欲望が抑えきれなくなるのもまた、魔王像の力なのかもしれない。
魔王山最奥にはこれまでの7つのシナリオのラストボスたち、つまりオディオの名に関係する者たち7体の石像があるが、中世編の時点でなぜ他シナリオ7体のボスを模した像があるのかについては、作中では明かされない。
時田貴司氏はXで、誰が石像を作ったのかについて、以下のように回答している。
う、それは…!おそらく魔王が憎しみの念を捉えて作ったのでしょう。ゲームとしてわかりやすく。 https://t.co/aYlHLfFxDw
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) March 28, 2020
「魔王が憎しみの念を捉えて作った」のなら時間も空間も飛び越えて魔王が作った、ということになるし、「ゲームとしてわかりやすく」も含めると、メタフィクション的にオディオとの繋がりを示唆するための存在と解釈して良いのだろう。
実際、最終編でオルステッド主人公時、魔王オディオは「はるかなる場所もはるかなる時をも超え、その歴史を変えてみせよう」と発言しており、魔王は時間も空間も関係なく様々な事象に介入できる存在であることがわかる。
中世編で20年前に現れた「最初の魔王」すら、最終編で戦うことになる魔王オディオと同一人物だった……という解釈までできてしまうのが恐ろしいところ(といっても、これは筆者の勝手な想像である。また、「ラスボスがラスボスを生み出すためループしている」物語は、同じスクウェアだとファイナルファンタジー1作目で描かれている)。
リメイク版では、オディオの名に関係する各シナリオの7体のラストボス及び、オディオに関係する敵は、バトル時に赤黒いオーラのようなものに覆われている。
中世編において該当するのは、ラストバトルのストレイボウのみという点に注目である。
中盤、魔王山山頂で倒した魔王と、その後にルクレチア城の玉座に現れた魔王には赤黒いオーラがない。
山頂で倒した魔王は偽物、というハッシュの言葉が、リメイク版では演出面でもフォローされた形となる。
ハッシュらが20年前に倒した魔王の正体については、リメイク版では最終編の追加要素でひとつの回答が提示された形になるが(結局、どういう経緯で20年前の魔王が生まれたのかはわからず、すべてが判明したのではないが)、リメイク版発表前に時田氏は以下のように魔王についてコメントしていることも参照していただきたい。
そこは明言していませんね。後付けで語るのも無粋なのでみなさんの想像だけ正解はあるということで。 https://t.co/lXugrn4HqL
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) March 28, 2020
そこはみなさんのご想像に委ねます! https://t.co/i5kX44DEAo
— Takashi Tokita / 時田貴司 (@Takashi_Tokita) March 28, 2020
以上のように、時田貴司氏はプレイヤーからの質問に対しては「そう解釈しても良いですね」という回答をすることが多い。つまり、プレイヤーが自由に解釈して良いし、それら様々な考察も含めて「ライブアライブ」という世界、と見て良いのではないだろうか。